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働き始めて丸二年。
まだ全然駆け出しだ。美波はこのタイミングで母になることを、受け入れてくれるんだろうか。
そもそも、俺はあと数年待つつもりでいたんだ。
でも美波が、半年くらい前から避妊を拒むようになった。
ちゃんと話し合わないとと思いながら…気持ちよさに負けてついついそのままにしてしまってたんだけど。
だから、こうなるのは当然予測できたことだった。
自分の子ができたと報告されて何も言わない俺は、はたから見たらひどい男だろう。でも美波はちゃんとわかってくれてる。俺が、美波の心を優先して確認したがってるってこと。
美波の小さな手が、俺の手を救い上げて包み込んだ。
「大丈夫。私が望んでしたことだよ。ちゃんと嬉しい。
あとでゆっくり話すけど…希望通りだよ。だから、一緒に喜んで?」
美波がそう思っているなら、俺には何の文句もない。
「…ありがとう、美波…」
思わず場所を忘れて美波の頭をそっと抱き寄せた。
カーテンの向こうからわざとらしい物音がして、産科部長が診察室に入ってきた。
「大塚先生、高岡先生。おめでとうございます。
順調ですね。もう6週目に入っています。
今回は私の権限でこういう形で診察しましたが、いつまでもそういうわけにはいきません。
院長とも話し合って、どういうふうにするか…早めに決めてください」
産科のボスである木村先生は、肝っ玉母ちゃんのような温かい人だ。
言葉は丸いけれど、美波がいつまで働くのか、俺との関係をいつどういうふうに公表するのかを決めろと言っている。
確かに、下手に噂を立てられると高岡家の不祥事だ。
二年目医師の院長の娘が、副院長とはいえ一勤務医とでき婚とか。
美波が働く小児科は、産科からそのまま引き継ぐ患者が多い。
うちで生まれて、継続して診察が必要な赤ちゃんが子供になって、小児科に通うようになる。もっと大きくなれば内科やほかの専門家に引き継ぐ形だ。
だから、小児科に加えて産婦人科も全体的に美波寄りの布陣が敷かれている。
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