エピローグ

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本来、患者のプライベートにここまで踏み込む必要はない。美波に結果を知らせてそのまま帰らせてもよかったのに、この人は俺をこの場に呼ばせ、俺に直接それを伝えてくれた。 美波が俺に話せない…なんて心配をしたわけじゃない。 俺のこと…というよりは、高岡が揺らがないことを考えてくれたんだろう。 やるべきことを早急にやれと、俺に直接言うためにここに呼んだ。 最悪俺は、そのうちここを去る立場なんだから、どうでもいいんだ。美波だって、居心地が悪ければ、一緒に大塚に来てくれたら俺は嬉しいだけ。 でも、高岡院長や…このあと参入してくる康成に対して反感を持つような人間を、間違ってもつくるわけにはいかない。 それに、産科の医師ってのは、完全に母体の味方だ。 母のストレスになるようなことは許さないってわけか。 院長を使って、二年も前から正式に夫婦だったということを、うまく公表させないと。 俺としては願ったりだ。 「わかりました。ありがとうございます」 二人で頭を下げて、バックヤードから帰らせてもらった。 「体調は?」 俺にとって最優先は美波だ。 美波が休みたいというなら、明日から休んだっていい。逆にギリギリまで働きたいならそうすればいい。 幸い職場は自宅から徒歩数分。 職場はかかりつけ医のいる病院。これ以上に安心な場所はない。 感染症や立ち仕事は若干心配だが、その辺は美波がきちんと考えるだろう。 俺のするべきことは、美波の身の回りをうるさく管理することじゃない。 外野の整理だ。 美波は俺の手を握ったまま笑顔で答える。 「今のところなんともないの。相談することもたくさんあるけど、よろしくね?」 自宅の玄関に入り、美波の目元に軽くキスをする。
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