転身

2/14
前へ
/312ページ
次へ
だから、キャプテン周辺からここに呼ばれたら…そういう意味で覚悟しておけってことだった。 中には恋愛相談とか、高校生らしい語らいに使う奴らもいたんだろうけど、俺は縁がなかったな。 「ここでやめるって?」 米田は、言葉を操るのがうまい男だった。 どういう風に動きたいかとか、さっきの絡みは自分はこういう風にしたかったんだが、お前はどうしたかったんだとか、全部うまく言葉で表現してきてくれる。俺の言葉が足りない分を、補って余りある奴。 その米田が、一言で俺の顔をじっと見つめてくるから、ちょっとびっくりしたのを今でも覚えてるな。 米田は、ベンチは確定だけどスタメンは取り切れていない位置にいて、俺の方が試合開始時点でピッチにいることが多かったんだから、言ってしまえば俺の引退を喜んだっていい関係だったんだ。 でも、米田の言葉は俺を責めていた。 監督には、引退して受験勉強にシフトするとだけ伝えた。 私立強豪校の監督だし、学校の先生ではないから、「…そうか」と言って終わり。同級生は何十人もいて、俺の代わりだっていくらでもいる。 やめるという一人の人間を無理に引き留めたりしなくたって、うちのチームは十分戦力を抱えている。 …と思ったけど、そうじゃなかったんだな。 俺が一番心を許している米田に事情聴取を任せたんだろうと、そこで理解した。 確かに、監督から慰留されたり理由を聞かれたりしても、俺は素直に心の内を話したりはしなかっただろう。 米田には、去年のうちから俺の家のことも話してあったから、どこかで予測してたんじゃないかとも思いつつ、せっかく聞いてくれたんだから改めて自分の言葉で伝えておくかと思った。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加