第11章 今のわたしは何一つ、自分の意思で選び取れそうな気がしない。

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不意にぐい、とわたしの顔を自分の方に向けさせていきなりキスする。図らずも唇の感触に身体がじんとなってつい反応してしまった。 「…っ、ん」 「…可愛いな、葉波は。…口で何て言ったって。ちゃんと俺のこといつも考えてくれてるって。だいじょぶ、俺は。…わかってるから」 何でそんなに自信満々なんだ。と言い返しかけて奴が実に幸せそうに続けた次の言葉を耳にして思わず固まる。 「俺のこと。…初めて好きって言ってくれたし。もうほんと、これ以上なんてとても。…求めたりしたらばちが当たりそうだよ」 人懐っこい生き物みたいにぐいぐい頬ずりされて本気で混乱する。 「え。…そんなこと。わたし、言った?本当に。…さっき」 慌てて思い返すけど全然覚えがない。 確かに頭の中では。好きな男の子とこういうことするのってほんとに素敵。どうでもいい男とするのとここまで違うなんて、ってうっかりぽうっとなって考えた記憶はあるけど。 だけどこいつのことを好きだって。ほんのついさっき、してる最中ののっぴきならない時点まで。 わたし本人でさえ自分に対して、そんな気持ちがあるなんて全く認めてはいなかったし。自覚だってなかったんだから。初めて認識したかどうかくらいの感情を、早くもそう簡単にだだ漏れに口にしたりは。してない、と自信もって…、は。言えないか。 奴はさらに幸福感が洪水並みに押し寄せてきたのを抑えきれない、とばかりにわたしに強く頬をすり寄せて熱を込めて囁いた。 「言ったよ、はっきりと。間違いなく。…初めてちゃんと言葉にしてくれたんだから。俺にとっては大事なことだし絶対聞き間違えたりしないよ。…好きなひととするだけでもう自分は満足なんだって。そう言ってたよ。めちゃくちゃ嬉しくて、まじでその場で頭爆発するかと思った」 「ああ…、うー。ん」 なるほど。そういうことなら絶対言ってない、とは限らない。 だってそれ、はっきりと頭の中で考えた覚えあるから。してる最中にうっかり自制心が緩んでそのままぽろっと口にしちゃってた可能性は。…あるな。確かに。 それにしても。こいつへの気持ちを内心で自分に対してうっすらと認めた瞬間に。ほぼ同時に相手の前で言葉にしちゃったわけで。思いとどまって心の奥に秘めたり胸の中で密かに逡巡したりする余地もないとは。 わたしは憮然としつつもどこかこそばゆく面映い、何とも言えない気分で奴の大きな手で頭を撫でられるがままになっていた。こういうのも全部嫌、ってわけではない。ぴったりくっついた奴の滑らかな肌に包まれてるのはほんとに気持ちいいし。 意地を張り続けるのを諦め、ため息をついて自分からも伸び上がって新の方に顔を向けてそっと唇にキスする。 こんなに温かくてしっかりしたリアルな触感があるのに。生きてる人間そのものとしか思えないのに、やっぱりこいつ、霊なのか。その事実が不意に胸に迫ってきりきりと痛みを感じそうになるけど。 今はそれを考えたくない。もっと落ち着いて冷静になって、心をがっちり鎧みたいなものでガードしたあとに。また改めて後日その現実に向き合うしかない。 この瞬間くらいはこうして。何も考えずに今のこの状況をそのままに受け止めて、ただ甘い悦びに浸っていたい…。 わたしの方からのキスは奴を浮き立たせたらしく、がしと後頭部をそのまま押さえられてさらに深く口の中に舌を差し入れてくる。身動きできずに執拗に探られて、思わず身じろぎして喘いだ。 その反応を察知して、新が確かめるようにわたしの脚の間に指を這い込ませた。さっきのでしっかりどこがどうなってるか学習を済ませたらしい。的確に中を弄られて反射的にきゅんとその指を締めつけてしまった。 「あっ、もぉ。…終わったばっか、…なのに」 「ごめ…、ん。俺。いやらしいかな。我慢できなくて」 そう呟きつつ。わたしのそこをかき回し、敏感なところを親指の腹で確かめるように擦る。ちょっと心配そうな表情でこっちの顔を覗き込みながら。 実際それほど経験がないから。こんなにここが濡れてるのに、やっぱり気持ちとしては嫌なのかな。女の子はよくわからない、と不思議に感じてるのがありありだ。その初心な不安そうな様子が胸を打つ。 わたしは首を振って、奴のそれに手を伸ばした。そっと触れると目を閉じてびくん、と肩を震わせる。初々しい反応が可愛らしい。 「あ、…っ」 「大丈夫だよ。全然嫌じゃない。…新の方さえ。こんな立て続けで、つらくないなら」 「つらいわけない。いくらでも続けてできるよ、俺。ほんとに葉波を呆れさせる自信ある。どんだけ俺、お前と。…ずっとこうしたかったか…」 わたしに柔らかくそれを撫でられて俄然元気が出たらしい。その台詞通り、びっくりするくらいそれは再びがちがちに硬く、大きく復活していた。ほんのさっき放出したばっかなのに。男の人のって、こんなに早く回復するもんなの? 信じられなくて思わずそのまま手の中で確かめるように撫で回していると、新が我慢ならないように呻いた。しまった、やり過ぎかな。 手を取って傍に押しやられ、のしかかって再び口を強く吸ってくる。
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