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「わしがガキのころに書いた本か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! その本にわしの始まりがつまっている。けど、わしが生きているまでに辿り着けなければ処分する」
進路に悩みながら帰ったその日、金田先生は突然変な発言をし、僕はその言葉にひかれた。
……金田先生の子供のころに書いた本、読みたい。
そう思ってしまった僕は進路の紙に、迷わず書いた。「ハンター(金田呂蛇先生が子供のころに書いた本探し)」
「猿田さん……。これは、ご家族でご相談されましたか」
「い、え……え?」
数日後、三者面談で呼ばれた母は、松丘に進路の紙を見せられて、穴のあくほど紙を見た。眼鏡をかけ直したり、紙を裏返したり、無造作にまとめた髪を結び直したり……。
「……これ、本気なの?」
ようやく紙の内容を認めた母は、ため息をつきながら僕に訊ねた。
「うん。今の僕にはこれしかないんだ」
僕と見つめ合った母は額のシワをより濃くして口をつぐみ、松丘が口を開いた。
「猿田さん。今ではなく未来を見てくれ。未来は大学に行ったり就職して変えられる。猿田さんの成績なら良い大学に行けるはずだぞ」
「僕は金田先生の物語の中にいたいんです。今もこれからも。だから、こんな素晴らしい職業以外思い浮かびません。
金田先生の物語の中にいれば、僕は独りぼっちじゃないし、楽しい世界にいれるし、友達が待っていてくれるんです」
熱く語る僕に松丘は笑顔になった。
「そうか。そこまでやりたい情熱があるのは素晴らしいことだ。応援するぞ。頑張れ」
「はいっ」
松丘の言葉に僕の目が輝く。母は、受け入れ難いというように潰れた声をもらした。
松丘が諭すような目を母に向ける。
「お母さん、個性を認めて伸ばしてあげましょう」
「はい……」
嫌々ながら母は僕の進路を認めることとなり、三者面談で僕の進路が確定した。
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