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「瑠都、あとでお父さんに相談しますからね」
学校を出ると、母にそう言われた。僕の進路はまだ決定してなかったようだ。
……いや、僕の決意は変わらない。父になにを言われようと、屈しはしないんだ。
夜、僕は拳を握りしめて、仕事から帰ってきた父に対面した。
アパートの重い鉄扉を勢いよく開けて入ってきた父はヒグマのようで、ひるみそうになる。ぴちぴちのスーツを破って鍛えられた肉体が飛び出てきそうだ。
「あー。いいんじゃないかね」
母から話を聞いた父が間延びした声を出しながらネクタイをほどき、どかりと床にある座布団に座りこんだ。床板が痛そうにミシリと悲鳴をあげた。
……僕の緊張はいったいなんだったんだ。
拍子抜けして僕が戸惑っていると、母がちゃぶ台を壊さんばかりの力で叩いた。父がやったら壊れていただろうけど、母の細い腕では壊れなかった。
「あなた! 瑠都のことを本当に思って――」
「ただし、やるからにはしっかりやってくれるかね。それと、それが本気なら別に今からでもできると思うのだけど、その本気を見せてくれるかね」
父は母を無視して僕を見つめてきた。そして立ち上がり、僕の肩に手をかけた。ごつごつした岩のような手が力をこめてくる。
……肩が、壊される!?
怖くなった僕は、ただこくりと首を立てに振った。
すると、父は豪快に腹から声をあげて笑いだした。
「それでこそ漢だね。俺の息子だね、はっはっは」
「はぁ。瑠都にはまともな道を進んでほしかったのだけど……」
「けど君はトレジャーハンターの俺にホレたんじゃなかったかね?」
……え? トレ……?
僕の父は薄給の会社員であるはずだ。
わけがわからずに両親を見ると、母のほほが上がり桃色に染まった。いつも疲れたような顔している母が瑞々しい女性に見えた。
「あ、あれはまだ若かったからよ。
……しかたないわね、瑠都の進路を認めるわ。けど、それだけではだめよ。これからもしっかりと勉強して、成績を落とさないことを条件に――」
「え、いや、ち、ちょっと待って。トレジャーハンターってどういうこと?」
進路を認めてもらえたのは嬉しいけれど、父の職業が気になりすぎる。
母は、慌てて会話を遮った僕にくすりと笑った。
「もう昔のことよ。瑠都が産まれて、一攫千金を当てれなかったお父さんはあきらめて定職に就いてくれたの。けど、録に勉強してこなかったお父さんは、就職活動に苦労して、やっと就職できても給料は低かった。だから、瑠都は勉強もしてね」
「けどまぁ、まだ俺はあきらめてないからね。定年後に埋蔵金でも堀り当てるために体を鍛えているんだからね」
僕が母の言葉に納得してうなずくと、父は膨らませた上腕二頭筋を母に見せつけて迫った。
母はそれを適当にあしらったけど、なんだか楽しそうな顔をしていた。
こうして、今度こそ僕の進路が確定したのだった。
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