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暫くするとコーディネーターが戻ってきた。
これから始まるのは、お見合いを終えた会員に対する意向調査のようなものだ。
「いかがでした?」
「会話自体は楽しかったですが、婚活の観点では全く手応えなしでした。こういったお見合いはどうやら私には不向きのようです」
「そんなことないですよ!数をこなせばコツも掴めますし、今日はとても盛り上がっていたじゃないですか。もし今回、川出さんから交際のお申し込みがあったら如何なさいますか?」
終始ニコリともしなかった男性から交際の申し出なんて。下手に期待したところで何になろう。
「あったところでまた考えます」
「そうですか。では近日中に、お申し込みの有無をお知らせしますね」
反省会を終えると、私はそそくさと荷物をまとめた。
受付スタッフの「ありがとうございました」を背中に受けながら店舗を出る。
自動ドアを出てふと視界の端に映った人影に、あらま、と声が出そうになった。
自動ドアの横にさっきぶりの川出さんがいた。
私がその場で立ち止まったものだから、バチッと目が合ってしまう。
「……先ほどはどうも」
川出さんは小さく頭を下げて挨拶をしてくれたけれど、私は内心穏やかでなかった。
この人は、私と鉢合わせて気まずいとは思っていないのだろうか。
「あの、吉田さんにお話を」
「だははっ!なあ、超うけんだろ!?」
川出さんの声は、下品な笑い声にかき消されて聞こえなかった。
私たちは揃って声の方向を見た。他人の迷惑お構い無しのよく響く大声に、人を見下すようなあの意地の悪い笑い方。
忘れもしない、私が一番最初にお見合いした男だ。
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