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「では、お互い逞しく生きていきましょうね」
私は笑顔を作り、踵を返した。
少なくとも当面の間シゲキックスは懲りるだろう。そして私も結婚相談所を退会しよう。
私たちにとって、相談所は適所ではなかったのだ。
これで終わりだと思った。しかし、事態は私の想定していなかった方向に傾いていた。
「ざけんなよ、おい!」
怒鳴り声が私に向けられていることは明らかだった。
振り向くと、後ろからシゲキックスが地面を踏み鳴らさんばかりの大股でズンズンと歩いてくる。拳を握り締め、絵に描いたような怒り方だ。
「てめぇ、調子に乗るなよクソ女が!」
これは非常にマズい。運が良ければ一発くらいは躱(かわ)せるだろうか。
喧嘩の経験はないけれど、私も拳を握って迎え撃とうと身構える。
すると、視界の中に別の人影が飛び込んできた。
「あの!」
どこから現れたのか、川出さんが私とシゲキックスの間に身体を滑り込ませた。
「結婚相談所のスタッフさんが、貴方に話があるとのことですよ。早く行ってみたらどうですか」
「うっせぇな、どけよ!俺は今この女と」
「至急らしいです。きっと大事な話じゃないですか」
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