結婚相談所

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シゲキックスは私を睨み付けながらも、荒々しい足取りで相談所へ入っていく。 自動ドアがゆっくりと閉まり、相談所の内と外とが遮断されたのと同時に、川出さんは相談所から遠ざかるように歩き始めた。 次いで急かすような視線をこちらに向けてくる。何を訴えかけてきているのだろう。 ぼんやり突っ立っている私に、川出さんは早口で促した。 「早く行きましょう。スタッフに呼ばれたって、あれ俺の嘘です」 「え」 「走れますか?」 私が返事をするより前に、川出さんは走り始めた。 私は慌てて川出さんの背中を追い掛けた。階段を1階まで一気に掛け下り、フロアをゆったり歩く買い物客を次々に抜いていく。 誰も使わないような裏側のドアから建物の外へ出て、ようやく川出さんが立ち止まった。 裏通りはファッションビルの影になっていて薄暗い。仮にシゲキックスが私たちを追って来たとしても、ここには来ないだろう。 4月の日陰は寒かった。アドレナリンで身体が暖まっていなければ震えていたかもしれない。 「さっきの方、お知り合いですか」 「初回のお見合い相手です」 「それは貧乏くじを引きましたね。やり取りを見ていましたが、全く酷い男だ」
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