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「本当に、悪質ですよ。これを機にアカ消ししてくれないかな」
私は独り言のように愚痴を呟いて、はたと気付く。
川出さんにまだお礼を言っていなかった。あいつを見張るのみならず、私を庇ってくれたというのに。
「助けてくれてありがとうございました」
「また会えませんか?」
そう私たちが発したのは同時だった。
ん?と思考がフリーズする。
また会えないか聞かれた気がするけれど、ともすれば都合の良い聞き違いかもしれない。
「ごめんなさい、何て仰いました?」
「お見合い終了後、相談所のスタッフの方に、吉田さんへの交際申し込みを依頼しました。またお会いしたいと思って」
川出さんとはこれきりになると思っていたから面食らった。
まさか交際依頼を貰えていたとは。お見合い中、そんな素振りは一度たりとも見せなかったじゃないか。
「あ、先ほどの男とのトラブルに乗じて、恩を着せるような形で交際を迫る訳では決してありません。まずは友人としてライトな関係を築ければ、くらいに捉えてください」
「大丈夫です。分かってます」
お見合いからシゲキックス事件までの一連で、川出さんの人となりは十分に理解した。ひとりの人間として、印象はとても良かった。
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