お隣さん

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お隣さん

私が住んでいる賃貸アパートは築18年の5階建てだ。外壁は焦げ茶の煉瓦風で、ベランダが南向きだから日当たりが良好な物件だった。 私の部屋は3階の一番西側、301号室だった。 これまでずっと空室だった隣の部屋は、今日から新たな住人が借りることになっている。 302号室のドアの前で、少しの緊張を和らげるため、一回深呼吸をする。 よし、行こう。 人差し指の腹でチャイムをぎゅっと奥まで押す。 しばらく待つと、ドアが開いた。 「どうも」 川出さんは不織布マスクを着けて、細かな埃を纏ったハンディモップを持っていた。 前髪はワックスで固めずに下ろしているから、スーツ姿の時より若く見える。 「こんにちは。何かお手伝いしましょうか?」 「家具の運び込みは明日以降なので、今日は掃除しかしないつもりですが」 「だと思って、汚れても良い服で来ました」 私は洗濯でよれよれに伸びたパーカーの袖を振った。下は高校時代からのジャージを履いている。 川出さんは頷くと、私を室内に通した。
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