お隣さん

5/21
前へ
/270ページ
次へ
店内は仕事終わりの会社員たちでごった返している。 私は何とか窓際に空席を見つけた。表面積の小さな丸テーブルの両側に、背の高い椅子が2脚向かい合わせに置かれた席だ。 座った膝の上にしっかり財布を構えて川出さんを待つ。 暫くすると、川出さんはカップを二つ携えてやって来た。 「あの、私の分はおいくらで」 「大丈夫です。お見合いで咳が止まらなかった時に緑茶を貰いましたし、今日はわざわざこちらまで来て頂いたので」 「そんな、お気遣い頂きまして……ありがとうございます」 川出さんは飲み物を机の端に置くと、まずはウエットティッシュを取り出してテーブルを拭き始める。 実は潔癖症なんです、というお見合い時の独白が耳の奥でリフレインされた。 机が綺麗になったところで、次はカード状の何かをテーブルに並べ始めた。 「こちら、僕の社員証と名刺です。名刺の方は差し上げます」 「はぁ、どうも……」
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

264人が本棚に入れています
本棚に追加