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店内は仕事終わりの会社員たちでごった返している。
私は何とか窓際に空席を見つけた。表面積の小さな丸テーブルの両側に、背の高い椅子が2脚向かい合わせに置かれた席だ。
座った膝の上にしっかり財布を構えて川出さんを待つ。
暫くすると、川出さんはカップを二つ携えてやって来た。
「あの、私の分はおいくらで」
「大丈夫です。お見合いで咳が止まらなかった時に緑茶を貰いましたし、今日はわざわざこちらまで来て頂いたので」
「そんな、お気遣い頂きまして……ありがとうございます」
川出さんは飲み物を机の端に置くと、まずはウエットティッシュを取り出してテーブルを拭き始める。
実は潔癖症なんです、というお見合い時の独白が耳の奥でリフレインされた。
机が綺麗になったところで、次はカード状の何かをテーブルに並べ始めた。
「こちら、僕の社員証と名刺です。名刺の方は差し上げます」
「はぁ、どうも……」
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