お隣さん

6/21
前へ
/270ページ
次へ
私は机に置かれた名刺を手に取った。 テレビCMでもよく見かける、情報通信業界の上場企業だ。川出さんは第一事業部で主任をしているらしい。 第一事業部ってどんな部署だろう、第二以降の事業部もあるのだろうか。大手のことはよく分からない。 ふと、結婚詐欺の文字が頭をよぎった。 ひょっとして、大企業勤務を騙って安心させたところで、ウォーターサーバーでも売り付けようとしてる?結婚相談所での登録諸費用を回収出来るくらいの高額で。 となると、この名刺は精巧な贋物かもしれない。透かすと浮かぶ諭吉のように、本物だと分かる手立てがあれば良いのに。 私が名刺を鑑定している間に、川出さんは別の何かを取り出してテーブルに広げていた。 何気なく視線を川出さんの手元に向けて、ぎょっとする。 「あとはこちらが運転免許証とマイナンバーカード、それから昨年度の所得証明と」 「ちょっ、ちょっと待ってください!一旦全部しまいましょう!」
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

264人が本棚に入れています
本棚に追加