お隣さん

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面積の狭いテーブルには種々のカードに戸籍抄本、さらには通帳や銀行印らしきものまでが所狭しと並べられていた。 私はそれらを地面に落とさないよう細心の注意を払ってかき集め、全部を川出さんの方へと押しやる。 「何のつもりですか、これほど大事なものを無防備に」 「僕と結婚を前提に付き合ってくれませんか」 「……は?」 いよいよ意味が分からない。 川出さんは私の困惑を察したようで、真っ直ぐな背筋を更にピシッと真っ直ぐに正すと、セールスマンの如く説明を始めた。 「相談所での形ばかりのカップル成立しか経ていない中、突然このようにアプローチをされても困るだろうと思います。ですから、まずは『得体の知れない人間』から『身分の確かな人間』に格を上げようと考えました。僕の所属、背景、社会的立場などをお伝えすることで、少しでも吉田さんにとって安心材料になればと」 「えっと、一旦整理させてください」 私は川出さんの話を遮って考え込んだ。動揺で額や手のひらから絶えず汗が噴き出ている。
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