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川出さんは首を曖昧に振った。肯定とも否定ともとれない。
「まだ物件の候補さえ見付けられていません。引っ越しなんて久方振りだから、どう候補を絞っていけば良いのかさえ分からない」
「こだわりや譲れない条件はあるんですか?」
「さほど治安が悪くない街で、家賃が高過ぎなければどこでも構いません。2時間以内に勤務先まで辿り着けそうなら、交通の便は気にしないです」
なるほど。無欲だからこそ、物件の決め手がないのだろう。
困っている川出さんを助けられないかとあれこれ考えて、ふと思い出した。
「そういえば私の住んでいるアパート、空き部屋がいくつかありますよ。確か私の隣も空室です。駅から若干遠いのと、買い物が不便なのが災いしているようですね」
私は、何の気なしに言ったつもりだった。
「それは、さっきの質問への答えと捉えて良いですか?」
「はい?」
川出さんの問い掛けの意味が分からず、聞き返す。
「結婚を前提としたお付き合いの話です」
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