お隣さん

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心の乱れを顕(あらわ)にしたら負けな気がして、私は張り合うように仏頂面を作り、川出さんを見つめ返した。 川出さんの瞳は黒に近い焦げ茶色だった。 薄味だけど端正な顔立ちは、見ていて不快じゃないし、寧ろ格好良いと思う。 そして何より、理由がどうであれ、川出さんは私を選んでくれた。 千載一遇のチャンスとは今この瞬間を指すのかもしれない。 恋愛感情はないにせよ『結婚を前提に』なんて覚悟を持った台詞を、この機を逃せば今後誰から聞くことが出来よう。 「……結婚相談所は成婚退会ということで宜しいですか」 私がそう答えると、川出さんが一瞬だけ笑った気がした。 ただ、まばたきをした次に見えた川出さんは元の無表情だったから、気のせいだったか或いは夕暮れの光の幻影だったのかもしれない。 「ありがとうございます。では、今から吉田さんは僕の恋人ということで、お願いします」 「こちらこそ」 こうして、私たちの普通じゃない交際が始まった。 ****
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