お隣さん

14/21
前へ
/270ページ
次へ
「どこまで拭き終えました?」 声を掛けられて、回想からハッと我に返る。 現在私が正面で向き合っているのは、交際を申し込んできた時点の川出さんではなく、ザラザラとした白い壁だ。 「リビング西側の一面と、あとは台所も全部終わりました。東面がまだ半分くらいしか」 「そうですか」 「はい」 会話は終わったはずなのに、川出さんは尚も私を見つめてくる。 上の空で掃除をしたのがバレていたのか、あるいは拭きが甘かっただろうか。ひょっとしたら、川出さんに指示された通りの『三往復』で拭けていなかったのかもしれない。 「すみません」 しかし、先に謝罪を口にしたのは私ではなく川出さんだった。 「え、何がです?」 「掃除を手伝わせるどころか、これといって楽しい話も思い浮かばないので、つまらないですよね」
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

264人が本棚に入れています
本棚に追加