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「いや……会話が無くても私は特に苦じゃないので」
それは私の本心だったが、川出さんは首を横に振った。
「どうやら僕は表情に乏しいようで、『怒ってるのか』『つまらないのか』と人に言われることもあるほどです。だから、吉田さんにも不快な思いをさせてしまっているんじゃないかと」
私は川出さんをじっくり観察する。唇がしっかりと引き締まり、眉はピクリとも動かない。
この人は、落ち着いた性格も相まって、純粋に感情が顔に表れにくいだけなのだ。見えない内側でちゃんと感情は動いているのだろう。
「結婚前提のお付き合いではありますが、俺に嫌気がさしたら、いつ別れていただいても構いません」
「分かりました。川出さんは笑顔を作るのが不得手だということ、覚えておきます」
「えっ?」
「はい?」
何を訊かれているのか分からず、思わず私も訊き返す。
「何か驚かれること、ありました?」
「いや……『もっと笑う努力をしろ』みたいなことを言われるかと思ったら、違ったので」
「川出さんが笑うかどうかは川出さんの自由ですし、もう表情筋のことは把握しましたので、私は特段気にしないですよ」
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