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「それじゃ、時間ですのでお相手の方を呼んできますね!」
コーディネーターが個室から出ていった。
一人残され、途端に手持ち無沙汰になる。とは言え、だらしなくスマホを弄る訳にもいかない。
私は腕時計の秒針をひたすら目で追った。
秒針が一周半回ったところで、二人分の足音が近付いてきた。腕時計を巻いた手を慌てて膝の上に引っ込めた瞬間、ちょうどドアが開く。
コーディネーターと共にやって来たのは、笑顔が一切ない仏頂面の男性だった。
この人は、本当に婚活をする気があるのだろうか。それが最初に抱いた所感だった。
体型はやや細身、全体として清潔感があり、顔立ちは癖がなく端整だと思う。が、いかんせん愛想の欠片もない。
笑わない原因は、もしや私だろうか。待っていた見合い相手が期待未満の女だったから?
男性は私の向かいに腰を下ろした。
「お二人、飲み物は何にされます?」
男性から視線で『お先にどうぞ』と促された気がして、私は小さく手を挙げながら先に口を開いた。
「あったかい紅茶をお願いします。ミルクと砂糖はいらないです」
「僕は結構です」
「遠慮しないで!ご存知かとは思うけど、飲み物はサービスだから!」
「……ではホットコーヒーで」
「はい、ストレートティーとホットコーヒーね。すぐお持ちします」
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