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振るべき話題を考えあぐねていると、小部屋のドアが開いて、コーディネーターが飲み物を運んできた。
「はい失礼します。吉田さんがお紅茶で、川出さんがコーヒーで宜しかったですよね?」
コーディネーターは飲み物を置きながら、即座に微妙な空気を察知したらしい。
「まあ、お互いじっくりお相手のプロフィールシートを読むのも良いですね!」
とフォローを入れると、そそくさと個室を後にする。出ていく直前、彼女が吹き出しそうな表情を浮かべたのを私は見逃さなかった。
恐らくこれからバックヤードで、今季最悪のマッチングだと笑われるのだろう。そもそも何故この組み合わせを作ろうと思ったんだ。絶望的に上手くいってないじゃないか。
考え出すと腹が立ってきて、何としてもお見合いを成功させてやるという意地がむくむくと沸いてくる。
「えーっと、趣味は料理なんですね。普段はどういった」
「コホッ、失礼」
川出さんが顔を背けて空咳をした。口を覆って何度も咳き込み、治まる気配がない。
「あの、大丈夫ですか。コーヒーありますよ」
「いえ、コホッ、別に平気……」
私が提案しても、川出さんは頑なにコーヒーを飲もうとしない。
何か差し障りがあるのだろうか。極度の猫舌だとか。
ふと、ここに来る前にコンビニで200mlの緑茶を買ってきたことを思い出した。
元々は温かかったはずだが、今はもう生ぬるくなり飲みやすい頃合いだろう。
鞄の奥底からペットボトルを引っ張り出してみたら、思った通り中身は冷めていた。
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