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「ぬるい緑茶、持ってますよ。未開封です」
私がペットボトルを差し出すと、今度は躊躇わずに受け取って一気に呷っていく。ゴクゴクと絶え間ない喉越しの音が個室に響く。
透明のボトルからは面白いように緑茶の嵩が減っていき、ものの数秒で中身は空になった。
川出さんはボトルをテーブルに置くと、フーッと長く息をついた。
「ありがとうございました……こちら、おいくらでした?」
「大丈夫です。大した額じゃないので。ご気分は大丈夫ですか」
「ちょっと空気が乾燥していたみたいで。大変失礼しました」
確かに、今日の天気予報で乾燥注意報が出ていた気がする。もし加湿器があれば借りてこようか。タオルを濡らして置いておくだけでも少しは湿度が上がるかな。
あれこれ思案していると、川出さんが初めて自分から口を開いた。
「実は僕、潔癖症なんです」
「はい?」
突然何の告白かと思ったけれど、川出さんが至って真面目な顔をしていたから、私は口を挟まないことにした。
「人の触れたものや外界の汚れが苦手です。前にここでお見合いをした時、出されたカップに口紅の汚れが残っていたのを発見して、それ以来ここの飲み物には口をつけられなくなりました」
「そうでしたか。だとすれば納得です」
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