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《すれ違い》
「…ここは、ッ!?」
はっと目を覚ますと、そこは病院に居るようだ、しかも個室の病室。
足元を見ると、ベッドに臥して休む敬大の姿…。
「敬大くん!?こんなところで寝て、…私は確か…橋の下で…」
横になっていた筈…
「ん…、あ!あずまさん、気がついた?よかった!」
呟きを聞き、目を覚ます敬大。
「敬大くん、すまない…私は…」
困惑したまま窺う。
「あずまさん、ここは病院、安心して、あずまさん熱中症で倒れたんだよ、幸い発見が早かったから大事には至らなかったけど、もう、心配したんだから」
そっと右手に触れながら安心させるように伝える敬大。
「…すまない、君が病院へ?」
「そうだよ」
「…あぁどうしよう、また金がかかってしまう」
「え?そんなことどうでもいいよ、命が危なかったんだよ?」
「大丈夫なんだ、わざわざ病院に来なくても、私は少し休めば治るから」
「熱中症なんだからちゃんと治療しないと命が危なかったんだから!あずまさん、病院に来なかったら死んでたかもしれないんだよ!?」
「…それならそれで仕方ない、私は君に世話をかけてしまうこと、それの方が重大だ、すまなかった」
そう頭を下げて謝る。
「仕方ないって、あずまさん、」
その答えに唖然とするが…
あずまは尚も続ける。
「度々、病院に連れてきてもらわなくていいから、私は丈夫だから、休めは治る。これからはそうしてくれ」
「ッ絶対嫌だ、これからも調子が悪くなったら病院は連れてくるから、あずまさんにしんどい思いはさせない」
「申し訳ないんだ、君をこんなところで寝させてしまって、それに君の金を使わせてしまうのが」
「大丈夫だから、治療代なら無料診療の申請してみるから、大丈夫、もうそんなこと考えないで、自分の身体大切にして」
「大切にしたところで…」
「大切だよ、あずまさんは俺の恋人なんだから、自分を大切にして」
「…敬大くん」
緩く首を振る。
「あずまさん」
「あまり、言わないように…」
「え?」
「私が、君の、恋人だと…」
小声になりながら伝える。
「どうして?恋人だよ」
「誰に聞かれるか分からない、君に迷惑がかかったら」
「なんであずまさんが俺の恋人だと迷惑がかかるんだよ、」
「普通じゃないだろう、誰にも知られてはいけない」
「普通って、好きな人と恋人同士になることは普通だよ?俺はあずまさんと…」
「敬大くん、ダメだ」
「っ」
「どうしてあずまさんは俺のこと、恋人だって思ってくれないの?セックスだってしたんだよ!?」
「ダメだ!」
「好きなんだよ、俺、あずまさんのこと、誰より愛してる。だから、俺のこと恋人だって言って」
「敬大くん、」
「ちゃんと、心も恋人同士になりたい」
「…それは、無理だよ」
「…っ」
あずまの言葉がズキッと胸に刺さる。
「私は敬大くんに本当に感謝している。だから、敬大くんが将来幸せになれるように願っている、その為には、私の存在はお荷物になるんだ」
「……」
そんなことない、首を振り否定するが…
「君が性処理に私を使うことも、敬大くんが必要なら好きにしたらいい、けれど、やはり恋人として君のそばにいるとは思えないよ」
あずまが話した内容に愕然とする。
「っ、なんだよ、それ…。俺は、昨日、あずまさんにありったけの愛情をそそいだつもりだったのに、俺の性処理?あずまさん抱いた理由がそれだけだと思った?…ッ」
なんだか悔しくて泣けてくる…
「……」
「ッ…あずまさんのバカッ!」
涙が溢れる前に病室から飛び出して行く敬大。
「……敬大くん、」
病室にぽつりと虚しくあずまの言葉が響く。
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