噂される祟り

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まるで霧を纏うように静かにたたずんでいたのは、行方不明になっていた有純だった。 白いワンピースを着て瞑想でもしていたのか目を瞑っていたのだが、目を開くと友絆に気付き驚いた顔を見せた。 「見つけた・・・ッ!」 「あれ、友絆くんだ。 どうしてここへ?」 「有純を捜しに来たんだよ。 というより、それはこっちの台詞だ! 有純こそ、どうしてこんなところにいるんだよ!?」 「んー・・・。 よく憶えてはいないんだ。 自然とここへ来ていたの」 「自然に、って・・・」 森の中、祠以外は何もない場所だ。 普通に生活していて自然にここへ足が向くとは到底思えない。 「・・・悪口を言われた子は、いらない子としてここへ来て、神の子になるんだって」 「神の子?」 「そう。 神の子になったら、自分の悪口を言った子を祟ることができるの」 “悪口を言った子は山の神に祟られる” おそらく有純はその噂のことを言っているのだろう。 だがそこで疑問が浮かんだ。 「でもそれ、人が直接手を出しているから祟りではないんじゃ」 「今の私はね、魂が半分吸い取られている状態なの。 この状態で森から出ると、自分の身体が消えるんだって。 霊になった状態で、自分の悪口を言った子を呪いに行くの。 それなら誰にも気付かれない。 だから“祟りだ”って言われているのね」 そのようなことは有り得るのだろうか、と半信半疑だった。 だが冗談や嘘をついているわけではないというのは分かる。   「どうしたら魂が半分吸い取られるんだよ?」 「神の子になったらだよ」 「その神の子っていうのには、どうやったらなれる?」 「森の神に会ったらかな?」 「・・・」 友絆は呆れて何も言えなくなった。 あまりに突拍子もないことに頭が付いていかないのだ。 確かに“悪口を言ったら”という噂は何となくだが信じていた。 だがそれすらも本当は半信半疑だったのだ。 有純が混乱する友絆を見てか、少し楽しそうに言った。 「ちなみに、悪口を言った子を呪った後は満足感を覚えるんだって。 もうやり残したことはないとかで、みんなここで自ら命を絶つの。 その子が死んだ瞬間、次に悪口を言われた子がここへやってくる。  この繰り返し。 これが、あの言い伝えの本当の姿」 「どうしてそれを有純が知っているんだ? まさか、森の神から聞いたとか言うんじゃないよな」 「その通りだよ」 「はぁ・・・」 大きく溜め息をつく。 もう完全に付いていけないと感じた。 「その森の神って、どうやったら会えるんだよ? 俺も会ってみたいんだけど」 「分からないけど、悪口を言われていらない子にならないと会えないんじゃないかな? 森の神はとてもシャイな子だから、なかなか姿を現してはくれないかも」 ―――・・・シャイな子? ―――有純は一体何を言っているんだ、馬鹿馬鹿しい。 「こんなところにいては駄目だ。 今すぐにここを出よう」 友絆は有純の腕を取る。 もしかしたら透けるのではないかとも思ったが、案外普通に触れそして温かかった。 だが手を引いても動こうとはしない。 「それはできない。 私はいらない子に選ばれたのよ? ・・・姫依に」 「・・・それ、知っていたのか」 「でなかったらここへ来ていないよ。 友達がツウィッターをやっているところを、横から見ちゃってね。 そしたら偶然姫依の鍵アカが目に留まっちゃって」 「でもこんなところに一人でいたら、怖くて寂しいだろ」 「そんなことないよ。 森の神がいてくれるから。 いつも私によくしてくれるの」 「いや、だからって・・・」 話しているとあることを思い出した。 「あ、そう言えば、さっき有純が言っていたことが本当だとしたら、今は有純が姫依を呪う番だろ? 姫依のことは呪わなかったのか? 『まだ何も祟られていない』って言っていたけど」 「あぁ、うん。 そのことなんだけど、友絆くんの言う通り姫依を呪わないことに決めたの。 だから私はここに残らないといけない。 森からは出られない」 「どうして?」 「神の子は一人だけしか残れないの。 私がここに残れば、次に悪口を言われた子はここへ来れないんだよ。 悪口を言った子も、もう祟られない」 「もしかして・・・」 友絆の側頭を冷や汗が流れた。 「ね、誰も死なないだなんて平和でしょ? 私が姫依を呪ったところで何も変わらないの。 また酷いことが繰り返されるだけ」 「でもそれ、有純が犠牲になるだけじゃんか・・・」 そう言うと彼女は寂しそうに笑った。
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