噂される祟り

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有純はしばらく俯いていたが、顔を上げると花のような笑顔を見せた。 「それにね、私は知っているの。 姫依が悪口を言っていた、本当の理由」 「それは、有純が人が良過ぎるからって・・・」 姫依から聞いた理由を言うと有純は首を横に振った。 「姫依からはそう聞かされていたのかもしれない。 でも本当は、そんな綺麗な理由じゃない」 「じゃあ、何?」 躊躇わずに聞くと彼女は視線をそらした。 「・・・私と姫依の好きな人が、友絆くんって被ったから」 「はッ・・・!?」 一瞬何を言っているのか分からなかった。 だが自分が原因だということが分かり、徐々に行き場のない怒りが湧いてくる。 「だったら、尚更ここにいては駄目だ! そんなことで死なれてたまるか。 早くここから出よう!」 「だから、それは駄目だって」 掴んだ手を有純は振り払った。 このままだと彼女は帰ろうとしないだろう。 だから話を聞いて思ったことを伝えてみることにした。 「きっとここの神は、祟ってほしくないんだよ」 「どういうこと?」 「悪口を言われた子には、自殺をせず、人を恨まず、平和に生きてほしい。 これが神の本当の望みだ」 「それ、本当なの?」 「人が操られたようにここへ来て死んでいくなんて、超能力者でもない限り無理に決まっている。 だから有純! 目を覚ませ! そんな夢みたいなことを言うな!」 「ッ・・・」 「何もせずに、ただ生きたいと有純が願えばきっと無事に帰れるはずさ」 「でも、そしたら森の神が・・・」 「大丈夫。 もう有純のような、神が願う存在の人がここにちゃんと現れたんだから。 さぁ、一緒に帰ろう。 神もきっと分かってくれるさ」 そう言って手を差し出して笑顔を見せた。 実際友絆が神の本当の願いなんて知っているわけがない。 だから全て説得するために考えた応えでしかない。 ただ有純を正気に戻させるために言った言葉だ。 これで拒絶されれば友絆もどうすればいいのか分からなかった。 だが彼女は素直に差し出した手を握ってくれた。 黙ったままその手を握り返すと一緒に霧を抜ける。  いち早くここから離れようと二人は走った。 「そう言えば有純、随分と神のことを慕っていたな?」 「うん、そうだね」 「神様って本当に見えるのか?」 「森の神なら見えるよ。 ちゃんとした人なの」 「人・・・。 おじいちゃん?」 「歳は私たちと変わらないかな?」 「え、そんなに若いの!? 若くても神様になれるのか・・・」 聞きたいことがたくさんあった。 「今までずっとここで過ごしていたのか?」 「うん。 不自由とか特になくて、とても快適だったよ」 「この森のどこに快適さなんか・・・」 「わッ!?」 「有純!?」 隣に並んでいた有純が姿を消した。 と、思ったらその場で座り込んでいた。 よく見ると彼女の足から血が流れている。 「ごめん、足を葉っぱで切ったみたい・・・」 「なら俺の背中に乗って、運ぶから!」 有純を背負い走るのを再開すると、今度は大きな雷が近くに落ちた。 「きゃぁッ!」 ―――雨なんて、降っていないのに・・・。 ―――こんな森のどこが快適だって言うんだよ。 雷に当たった木は真っ黒焦げになっている。 それを見て有純が言った。 「・・・やっぱり私、森の神を一人にしてはおけない」 「神を助けられるかどうかは後だ! 今は俺たちを優先しよう! とりあえず、急いでこの森から出るぞ」 有純の言うことは無視し、何とか森を抜け出すことができた。 森から出れば霊となり姿が消える。 有純はそう言っていたが、全くそんなことはなくどこも変わりはない。  走っている最中に血も止まったらしい。 「・・・あれ、いない・・・。 岩太たちも一緒に、有純を捜しに来たんだけど」 どこを探しているのかは分からないが、辺りに三人の姿は見えない。 「え、そうなの!? なら早く見つけないと! もう日が暮れちゃう」 「あぁ、そうだな。 有純はここで」 「私も行く! お願い、行かせて」 本当はこの森にこれ以上いさせたくなかった。 すぐにでも離れないとまた彼女がいなくなってしまうような気がした。 だが三人をこのままにしておくわけにもいかないのも事実だ。  そのような考えが頭をぐるぐると回り、結局彼女の意見を尊重することにした。 「分かった、一緒にみんなを捜そう」 そうして二人は再び森の中へと入っていった。
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