噂される祟り

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一方その頃、姫依たち三人は森の中でまだ有純のことを捜していた。 まだ空は明るいが、山で森ともなれば捜すには中々暗い。 先程友絆が足を滑らせたこともあり、一行の歩みは慎重を極めた。 岩太「おーい! 有純ー!」 細雪「有純ちゃーん!」 名前を呼ぶ声をかき消す程の大きな雷が先程から鳴っている。 雨こそ降っていないが、その音と光はただただ恐怖を煽ってくるのだ。 細雪「ねぇ、さっきから雷の音が近過ぎて怖いんだけど・・・」 姫依「さっき、すぐ近くに雷が落ちたよね?」 友絆と有純が見た落雷も当然三人にも分かっている。 山火事になっていないことが幸いだろう。 岩太「雨は降っていないし、おかしな天気だな。 それにそろそろ、友絆と合流してもいいと思うんだけど」 姫依「本当よ。 友絆の奴、一体どこへ・・・」 細雪「わぁッ!?」 姫依「細雪!? ちょっと! 岩太、大変! 細雪が!」 先導して前を進もうとしている岩太を呼び止めると、彼は姫依の声を頼りに細雪に近寄った。 「どうした!?」 「足に、ツルが・・・」 細雪の足には細いツルが何本も絡まっていた。 まるで何かが引っ張ろうとしているようだ。 「畜生ッ!」 岩太が力尽くで解こうとしてもなかなか解けない。 生の蔓が幾重にも絡まり、千切るも解くも容易にできそうにない。 岩太「困ったな、どこかに切るものでも落ちていないか・・・?」 薄い石でもガラスでもいい。 そう思って辺りを見渡すが、都合よく使えそうなものはなかった。 細雪「こ、ここは私が一人で何とかする! だから二人は有純ちゃんを捜しにいって!」 姫依「こんなところで細雪を一人にさせるわけ」 細雪「暗くなる前に有純ちゃんを捜し出す方が先でしょ!?」 姫依「でも・・・」 蔓が絡まる細雪からしてみれば、自分のことで時間を食うのはマズいと思ったのだ。 雷はなり続けているため、いつ雨が降ってきてもおかしくはない。 もしそうなってしまえば捜索を断念せざるを得ない。まだ友絆とも逸れたままの状況、もしかしたら合流すれば蔓を何とかする手段を持っているかもしれなかった。 岩太「分かった。 でも切れそうなものを見つけたら、すぐにここへ戻ってくるから。 一人で解けても、迷子にならないようにここから動くなよ! 行くぞ、姫依」 岩太はこの場から離れようとしない姫依の腕を引っ張り離れた。 細雪はやはり不安気な表情を見せたが、岩太は「大丈夫」と笑顔で応え姫依と前へと進んでいく。 「姫依、気を付けて歩くんだぞ」 「うん・・・。 ねぇ、有純は絶対に見つかるよね? アタシ、有純に謝りたい」 「そうだな。 今日見つからなかったとしても、いつか絶対に見つけてみせるさ」 歩いていると激しい光が辺りを包み込んだ。 ほぼ同時に凄まじい音が鳴り響き、近くの大きな木が真っ二つに割れていた。 それにすぐさま反応した岩太は姫依のことを突き飛ばす。 「ッ、岩太!」 吹き飛ばされ尻餅をつくも素早く立ち上がり岩太のもとへと駆け寄った。 幸い感電するようなことはなかったが、倒れた木の枝が岩太の足の上に乗っかってしまい到底動けそうにない。 「くそッ、木が重くて足が抜けねぇ・・・」 「そんな・・・」 姫依も協力し木を持ち上げようとするもビクともしなかった。 焦げ臭い匂いが広がっているが、火は全くないことが救いだろう。 それを見て岩太は声を張り上げる。 「このままここにいても仕方がない。 姫依、一人で行け!」 「嫌よ、そんなの! 一人でなんか、捜せるわけ・・・」 「有純をいち早く見つけて謝りたいんだろ! だったら前へ進めよ! 俺も動けるようになったら、姫依の後を追うから!」 「でも」 「早く行け!!」 「ッ・・・」 大きな声で怒鳴られたため意を決して進むことにした。 姫依は涙目になりながらも力強く頷きここから走り去る。  何度か岩太の方を振り返って見ると、親指をしっかりと立て送り出してくれているのが励みになった。 ―――岩太、絶対助けに戻るから。 一人になった姫依は森の捜索を再開した。 ―――有純、どこ・・・? ―――友絆もどこにいるのよ・・・! ―――早く二人を見つけて、ここから抜け出し・・・。 獣道を走っていると、何か大きな気配を感じた。 「友絆・・・?」 だがそれは明らかに人ではなく、確認しようと近付いたことが裏目に出たと分かる。 大きな猪がそこにいたのだ。 まだ姫依には気付いていないが、その存在感は姫依の恐怖を煽るには十分過ぎる。 ―――どうして・・・? ―――もしかして、これが祟り? ―――アタシの大切な友達を犠牲にするなんて、そんな・・・ッ! ここへ来てから運が悪過ぎるように思えた。 細雪は蔓が絡み動けなくなるし、激しい雷は木を倒し岩太を動けなくした。 考え過ぎかとも思うが、更に自分が猪に遭遇したとなると嫌な予感が頭を離れない。 「キャッ!」 恐怖は姫依を後退らせ、慎重に行動しなければならないという鉄則を頭から消し去っていた。 積もった落ち葉がまるで落とし穴のように段差を隠している。  重心を崩し転がり落ちる一歩手前で、何とか小さな木の幹を掴んだが、自分の力では地上に上がれなそうになかった。 「誰か・・・ッ、助けて・・・!」 片手だけで自身の体重を支えるのは相当に厳しい。 このままだと姫依が転がり落ちてしまうのは時間の問題だった。
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