次の電話で

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『実際産まれて、旦那の子じゃないことがわかった。血液型ね。じゃあ誰の子かってことになって。私はあの三万円だけ持って実家に帰った』 「お父さんとのことはバレてないの?」 『私が家を出るまではバレてなかったと思う。でもそのあとはわからない』 「それで離婚てことになったんだ」 『そう』 「よく、子どもを奪われなかったね?」 『子どもは、特にいらなかったみたい、あの家には』 「少なくとも雄太は孫だし、跡取りじゃないの?」 『そんな考えはなかったみたいね。私が実家に帰ってしばらくしてから、サインが入った離婚届が送られてきたの。何も添えられずただ離婚届だけが。 さっさとサインして提出したよ』 「それで、あとは子どもを育てるために働きに県外へ出たってこと?」 『熊本なんてさ、仕事そんなにないじゃん?子連れだと余計にさ。だから実家に預けて私は働くことにしたんだよ』 「それにしても、転々としてたみたいだけど」 『あは、どうしても男を作ってしまってね。たいていどうしようもないやつでさ、のんだくれか、暴力か、ギャンブラーか。まともなヤツがいなかったわ』 「いつだったかの保釈金は?」 『あー、アイツはわりといい男でね、あの時私はアイツにめちゃくちゃ惚れてたし、アイツも私を愛してくれてると思ってた、でも窃盗で捕まってさ。涼子に電話した時、ちゃんと考えた方がいいよって言われて、実家に置いてきた息子たちのことを思い出した。そして、そこから逃げた、アイツをほったらかして』 由美ってこんなに男にだらしなかったっけ? 「いまは?」 『今は優しい旦那様と暮らしてますよ。ちゃんと結婚してるし仕事もしてる。アイツから逃げてる途中、どこだったかな?静岡?居酒屋で会って気があってそれから一緒にここに来たんだ』 「過去のことはもう変えられないけど。息子たちは元気なんだね?雄太はわかるけど、下の子は?事実を知ってるの?」 『なんとなく、それぞれ父親が違うということはわかってるみたい。話したことないけど』 「わざわざ話す必要もないと思うけど。知らずに済めばそれでいいんじゃない?」 『知らずに済めば、か。まぁ、たしかにそうだね。明らかにしないでおくわ、息子に軽蔑されたくないし』 衝撃的な話だったけど、いまさらどうしようもないということだけはわかる。 雄太も次男もそれぞれの場所で元気にしているなら、それはそれでいいかもしれない。 『そういえば、下の子ももうすぐ結婚するんだよ、結婚式に呼ばれてるんだ、2ヶ月先だけどね、熊本だけどね』 「お父さんお母さんは元気なの?息子たち2人を立派に育ててくれたんでしょ?」 『年取ったからそれなりに、だけど元気みたい。頭が上がらないよ、私は』 「そりゃそうだ、こんな親不孝な娘はいないよね?」 『涼子に言われると、なんか腹立たしいわ。あんたはいつもいい子だったもんね、今も変わらずか』 「いい子なんかじゃないけどさ。由美は今が幸せならいいか」 『貧乏だけどね、いいよ、こんな生活も』 「それを聞いて安心したわ」 『じゃ、またね』 「うん、また」 由美の話を聞いても、全然実感がわかない。 突拍子もないことすぎて、想像もできない。 胸を悪くしたような感触だけは残ったけど。
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