内側からしか開か無いドアの牢獄の刑務所

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内側からしか開か無いドアの牢獄の刑務所

「七四三番、開けろ。メシだ。」 「ハイハイ。」囚人の男は看守の言う通りに扉を開けた。 「今晩はどんなご馳走ですか?」 「鶏カツ定食だそうだ。心して食え。」 「ハイハイ。ところで看守さん、何でこのこの刑務所はこんな訳の分からないシステムなんだ?“牢獄の内側からしか扉が開か無い”なんて本末転倒じゃないか。」 「貴様は三日前ここに来てから各看守に“その事”ばかりをを聞き回っているらしいな。だが、ここの規則で、それについては教えられ無い事になっている。誰に聞いても無駄だぞ。」 「ハハハッ、流石に看守たちにはいき通ってるか。だが、オレがいくらしつこく聞き回ろうともペナルティーがある訳では無いし、懲罰も無いのだろう?」 「ああ、無い。だが、『必要以外の会話』、『牢獄から出ではならない』ここの規約の十条と十五条だ。貴様も承知しているはずだが?」 「ああ、そうだったそうだったな…。」男はそんな事は覚えていなかったが、この事を始め、この刑務所に連れて来られた時から違和感を感じずにはいられないのだ。その一つが警備の手薄さだ。男がここに来て収監されるまでに見たところ、この刑務所は『普通の建物とさほど大差が無い。』という事が分かったのだ。普通の刑務所は鉄筋コンクリート製であるのに対してここは木造で、窓や扉にはには鉄格子は無く、監視カメラやセンサーの類も全く付いていないのだ。それはまるで『脱獄してください。』と言わんばかりなのだった。 そして男が収監された牢獄も異様であった。牢獄は通路の左側に十室が連なっていて、鉄筋コンクリートで出来てた。その各室の前に三十センチくらいの壺が置いてあったが、男はそんな事よりもその牢獄が明らかに後から無理矢理にこの木造平家作りの建物に増築されている事に驚きを通り越して呆れていたのだった。男はその瞬間に『何とも行き当たりばったりな建築をしたのだろうか。こんな所にオレのような終身刑以上の凶悪犯ばかりを収監しているとはな…。ハハハッ。』っとほくそ笑んだ。 そして極め付けは内側にしかドアノブがない牢獄だ。もちろん鍵やセキュリティーはなく、中からは自由に開閉出来てしまうのだ。室内はベット、机とイス、便所と時計があるだけの一般的な仕様で、防音が“これでもか!”と言わんばかりに施されていた。男はこの時、とても楽観的な考えに陥り、完全にこの刑務所を舐めてかかり、今日に至っているのであった。 「さっさと扉を閉めろ。食い終わったら容器は外に出しておけよ。」 「ハイハイ、分かってますよ。」男は言われた通りに扉を閉めると夕食を食べ始めた。数分で夕食を食べ終わると男は何もする事が無いので眠りにつくのであった。男はこの監獄に来て三日目の夜であったが、すでに脱獄する計画を企てていた。『いつでも行ける。明日でも明後日でも…』そんな事を思いながら眠りについたのであった。 そしてこの日の夜の事だった。妙な胸騒ぎを覚えて、男は目を覚ました。体は汗をびっしょりとかいていて、心臓がはち切れんばかりに強く脈打っていた。『何かがおかしい…』男は直感でただならぬ気配を感じ取っていた。時計の針は午前一時半を指していた。男は居ても立っても居られずに壁やドアに耳を付けて、外の音を聴こうとしたが、鉄筋コンクリート製の壁の前では何も聞こえてこ無い。男は自らを落ち着かそうと水道の蛇口から水をゴクゴクと飲み、深呼吸をして精神を落ち着かそうとした。だが、汗はより吹き出し、体はブルブルと震えが止まらない。それは自分が今まで経験した事のないほどの事態が身近で起こっていることをものがったでいる事を男は本能的に理解した。 イライラと恐怖と不安と焦りが男の中に同居していて、兎に角ジッとしていられないのだ。そして男は意を決して少しだけ扉を開けてみた。すると外から数人の看守の声が聞こえて来た。それはどうやら男と同じタイミングでここに収監された隣の囚人の室の前から聞こえてくるのであった。 「あーあ、グチャグチャだ。DNA検査するか?」 「いや、いい。まず囚人番号七四二で間違い無いだろう。ニ号牢獄の前だしな。」 「ここに来て三日か。まぁ、こんなものだろう。手薄な警備を良い事に脱獄を試み、そしてやられた…。」 「それにしても、もう少し手加減は出来んものかな。毎回上への報告を誤魔化すのが面倒だ。」 「そう言うな。壺の魔人が我々に変わって見張りをしているお陰で我々も楽が出来、なおかつ世界で最高の業績を上げていられるのだ。」 「ハハッ、業績ねぇ…。別名“死刑執行刑務所”と呼ばれてるんですよ?」 「まぁ、間違いでは無い。ここに来るのは終身刑以上の囚人だけだからな。それに“ここに来る囚人は皆、執行日を待たずしてここを去って行く”。さぁ、とっとと片付けて続きをやろう。」そう言うと一人の看守が壺の蓋を開けた。すると中から巨大な二本の赤褐色の手が伸びて来て、肉片や血液などを綺麗サッパリに壺の中に持ち帰ってしまった。そして壺の中からは“クチャクチャゴリゴリ”と不気味な音が聞こえていた。 この一連の会話と音を聞いていた男は真っ青な顔をして布団に包まり震え始めた。そして数年後、男はこの刑務所で初めて“真っ当な形で”刑を勤め上げた唯一の人物となったのであった。終
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