ニベあやかし組合親睦会で、ノームのお兄さんの嫁フラグが立ってました。

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 ここはニホンベサルチア連合国。  といっても昔ながらの日本である。    ある日、富士山の麓に空いた穴から異世界の住人が現れ、世界各地にも同様の穴が空いた事で国際問題に発展したが、首脳会議で当時の日本の首相からの、   『魔法で防御されたらおしまいですし戦争にもなりゃしませんよ。ミサイルとか魔物に効くかも分かりませんし、日本の象徴である富士山を焼け野原にする訳には行きません。  まあ害意もないそうなんで、ここは1つ穏便に』    というなあなあの決断が評価され、各地で連合国として異世界の住人との共存関係が築かれる事となる。    それから早×年。      ラノベが存在する国の日本人からしてみれば、獣人や魔物と呼ばれるファンタジーが現実になって大歓迎だった者も多く、「外国人はとりあえずもてなす精神」が根強い年配勢からも、「日本人じゃない人(魔物)」という事でざっくりと理解され、概ね共存関係はどの国よりも早く構築されていた。    割と大雑把なゆるい国民性であるとも言える。    だがベサルチアの種族(特に男性)は、人であれ人外であれ一途で思い込みや独占欲が強く、思い込んだら命がけのストーカー気質な人種が多い事を、日本人はまだ気づいていない。        ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇            金曜である。仕事も終わり現在夜8時過ぎ。  そして月曜も祝日と言う三連休。    通常であれば、若い女子は恋人とデートやら、恋人がいなければ「恋愛したーい!」「結婚したいわー」などと友だちと飲みながら恋愛トークなどに花を咲かせたりしている人も多いのではないかと思われる。      だが、桂木みちるはそんな金曜日の夜に、せっせとビールや焼酎を頼んではテーブルに運んだり、残り少なくなったツマミを新たに頼んだりしていた。    接待というお仕事である。        30歳というピチピチした若さでもなく、恋人も現在居ない。そして連休は特に大した予定もない。  秋冬物の服の入れ替えをして、部屋のレイアウトを少し変えようかなー、位のいくらでも変更の効くゆるい予定である。    そして、何故か今回の接待係もみちるに、と指名があったのだ。1回目2回目とたまたま担当になったせいで変に信頼されたようだ。        今回で3回目となる【ニベあやかし組合親睦会】という名の飲み会は、みちるの勤めている区役所に数年前に出来た「ニホンベサルチア部(通称ニベ部)」というところが定期的に開催を始めたイベントだ。    他の業務はベサルチアを学ぶセミナーの開催や住まいの相談、仕事の斡旋、暮らしのアレコレなどまあいわゆる何でも屋のようなモノである。    何しろベサルチアの人たちは人間ではない方も沢山いるので、基本的なルールが分からない事も多かった。    火は魔法でつけるもの、遠距離の移動は魔法陣を使うものなどと言う感覚の人たちと日本人の手続きは流石に一緒くたには出来ない。    結果、お国の上の方で話し合って専用の部署が生まれた訳だが、火は基本的にガスで点けるもの、灯りや電化製品は電気を使うもの、動物園の生き物は保存食ではなくて食べられるかも知れないけど狩りをしてはいけないもの等、そこから教えるんかい、という事が多岐に渡るのである。    世の中には色んな文化があり、当然ながら国によって異なるので、ファンタジー的なベサルチアと日本ではやはりベースが違うとは言え、最初はかなり大変だった。    ベサルチアで研究者や魔導師と言われるタイプが一番厄介だったと言ってもいい。    「何故ガソリンでクルマは動けるのか」  「どうして電気で映像が映るのか」  「パソコンというのは何で色んな情報がすぐ検索できるのか」  「ケータイというのは線も繋がってないのに何故離れた相手と話せるのか」  何故なんでどうしてなんで。    なまじ深く考えてしまうのがいけないのか、壁に穴を開けようとしたり機器を分解しようとしたり、解決したい疑問が飛び交ってしまうのだ。      その点、スライムさんやゴブリンさん、獣人の方々など割と素直に物事を考える人たちは楽である。   「ほーそうなんだ」 「便利だねえ」    とのほほーんと受け入れてくれるし、魔法の代わりみたいなもんだとゆるく認識してくれたので、順応も早かった。    むしろ順応が早すぎるだろというレベルで、1週間もしない内に人間をダメにするクッションに埋まり、テレビドラマを見ながらポテチを触手でひゅるんと掴んで食べてるスライムさんや、スマホを駆使して近くの美味い店を探したりするゴブリンさん、パソコンで情報を仕入れて起業する仕事を模索する商人さんなど、   『ニホンとはこういう所なのである』    とするりと理解する人たちの方が馴染むのが早かった。      「なんで病」にかかった人たちも、全ての人が電気や車やパソコンなんかに万能な知識がある訳ではない事も理解し、そうなんだからいいじゃん? というゆるい価値観に流され出して、半年もしない内にすっかり順応したのだが。        そして、ベサルチアと連合国になった事で変わった事がある。    あくまでもファンタジー、作り物と思われていたスライムさんや獣人さんなどに加えて、狼男さん、ドラキュラさんといった物語のキャラの位置づけだった人たちも実在が確認できた事で、   「日本の妖怪も実在するんじゃないか」    と考える人が増えたという事だ。    そして、今まで実在を疑われていた妖しというのは信じる人たちがいればいるほど実体の影が濃くなるようで、天狗さんに河童さんや雨女さん、のっぺらぼうさんや猫又さんなどが各地で目撃されるようになった。    ベサルチアと日本が繋がった事で、異界の扉が開いたのかも知れないし、元から摩訶不思議の扉が開き出していてベサルチアが引っ張られたのかは不明で、これからの研究で明らかになるのかも知れない。    不思議と一目入道だのカマイタチ、女郎蜘蛛など物理的な危害を人間に加えると言われているような妖しは出てこない。せいぜい驚かせたり軽いイタズラをする程度の人たちばかりだ。  妖怪に人たちと言っていいのか分からないが。      そしてまた国の偉い方が会議をする訳である。   「ベサルチアだけ優遇して、日本の先住者に何もしないというのは倫理的にどうなのか」 「彼らも日本国民である」 「戸籍も作ってあげれば暮らしやすいだろうし、こちらも先々長寿で老化しにくい納税者が増えて一石二鳥」    などなど、恐らく最後の意見に本音がダダモレではあるが、妖怪さんも受け入れるべきだという世論も相まって、それもニベ部が担当する事になったのである。    妖怪部署は妖怪部署を新たに作ればいいと思うのだが、そこは「今あるところで何とか出来るといいな」という余計な経費を税金から出したくない国の思惑があったりして、世の中世知辛いことよのう、とみちるは思うのである。      ただ、みちるもファンタジー小説は好きな人間だし、最初は驚いたが今は全く平常心で対応できる。    部署の人間も皆ベサルチアや妖怪さんには拒否反応はない。なんか部署を作る前にテストみたいなのを一斉にやらされたから、あれで適性のある人が異動になったんだろうとみちるは考えていた。  未知の存在が受け入れにくい、怖いという人も一部ではいるのだ。    人のようにクレームなどもないし素直だし、ゴツい見た目とは違って気持ちの優しい方々も多いので、みちるたちは極楽極楽と思っていた。    そして、ベサルチアの妖しと日本の妖しとの交流も必要だろうと親睦会を始めたというのがこの催しのきっかけである。        今回はベサルチア側からはドラキュラのミクマ氏、狼男のベガさん(満月にだけ変身するので狼の獣人とは違うらしい)、小さな蛇が頭に沢山いるメデューサのアメリーさん(蛇と目が合うと石化するのではなく相手が失神するらしいので大きなニット帽で隠している)、ノームのバスクさん。メジャー所が勢揃いだ。    日本からは、小豆洗いのシオヤさんに雨女のチヤさん、のっぺらぼうのトキさんと河童のエンドウさんだ。  こちらも知名度は高い。    何故か2回目3回目の参加者もいるのだが、何しろ色んな種族(?)と連絡を取ろうとしても、携帯を持ってない人も多いし、持っていても使い方に慣れてない人(妖し)が多いので、捕まる人がまだ限られているのだ。    いずれは横の繋がりで何とかしようと部署の人間とは話し合っているが、毎回似たような面子であっても定期的に開催をしないと経費が下りなくなるので、2ヶ月に1度の親睦会の開催は大切なのである。  同期の飲み会のようになっていても継続は大事。        居酒屋の個室を借りて、今回も和やかに始まったのだが、ベサルチア側から先に愚痴が出てくる。   「……ねえ、小豆洗ってるだけで怖がられるってどうなの? 仕事楽すぎじゃない?   ニホンの人間ってチョロすぎない?」    アメリーさんが大分アルコールの入ったらしい赤くなった顔で呟いた。目鼻立ちの派手な美人なのだが、頭が蛇だという事で恋愛的にはなかなか上手くいかない事が多いらしい。    だがこれが自分の存在意義だからとマメに蛇さんたちを洗って清潔に気を遣ったり、保湿剤なども使って艶やかさを保ったりしているところが可愛らしい。    ミクマさんもそーだそーだとビールのジョッキをテーブルにドンッと置く。   「俺なんかなあ、別に血なんて種の維持のために1年に1度、それも50ミリリットル位飲むだけだぞ?   もうニホン人のお屠蘇とかの感覚なのに、やれ会ったらすぐ血を吸われるとか操られるとかさー。  大体血ばっか飲んでて栄養になると思う? 普通に肉も魚も食ってるし本来そっちがメインだわ。  あんなん鉄分ばっかだし美味くも何ともないし。  イメージ大切だから黒マントと黒スーツは欠かせないけど夏は暑いし冬は寒いしでマジでキツいのよ」     年間で飲む血がヤク●ト1本より少ないとは意外だが、まあ唐揚げや焼きそばを美味い美味いと貪っているので事実なのだろう。    金髪の30代位に見えるイケメンなのに、かなり苦労しているようだ。みちるはイメージ重視も大変ですねえと同情しつつビールと厚揚げ焼きをテーブルの注文板から追加して注文する。   「いや、小豆洗うだけで言うけどね、最初は波の音とか葉っぱが風で揺れる音とかに勘違いされて、何十年も興味も持たれなかったのよ?  漸く小豆洗いって名前を付けて貰えた時には小躍りよ? そちらさんは見た目でもうドラキュラだーとかメデューサだーとかキャーキャー言われるだろ?  なんつーの? 格好も洒落てるしよ。  俺らは地道に苦労しても姿すら朧げにしか見せられないから、むしろ羨ましいよねぇその見せる美学っての」    ウーロンサワーでご機嫌な小豆洗いさんのシオヤさんは筋骨たくましい50代ほどに見えるいぶし銀のオイチャンだ。    ただ妖しに年齢という感覚はない事が多いので、全て見た目年齢だ。    大体聞くと千年とか二千年は生きてるとか曖昧すぎる上にどでかい数字が帰ってくるので、あーそうですか、としか言い様がない。   「見た目もっと若く見えますねえ」  という接待の褒めワードが無意味だからである。    とても千年も生きてるようには見えませんねとか、千年生きてる人を普段から見ていないので気楽に言えない。天気の話レベルで会話が続かないのだ。   「それを言ったら狼男なんて満月以外は凡人だから、トキさんやエンドウさんみたく、見た目だけで一発でそれと分かる奴はいいよなーって羨ましいですよ……」    ベガさんは眼鏡をかけた20代の研究者風のお兄さん。物静かで1杯の梅サワーをちびちびと飲んでいるが既に真っ赤なのであまりお酒には強くないのだろう。   「のっぺらぼうって言っても顔見せ出来ないんだよ? 目も鼻も口も出してないのがルールなんだから。ないことしかアピールポイントないもん」    トキさんは顔面の筋肉がとても発達しているらしく、何もないように操作は出来るが、普段は普通のチャラい感じのロン毛のお兄さんだ。目も鼻も口もある。 (だって見えないわ食えないわ息が出来ないじゃん、とは本人の言)  見た目は20代そこそこで、渋谷とかにいても馴染めそうなお洒落な今時の子という感じ。   「いや、言うても河童だからなー俺は。  水辺の近くにしか住めないし、川の流れ沿いに住んでる友だちしかいねえし、寂しいもんよ?  チヤなんか雨女だけど、見た目普通の美人の姉さんだからさ、町で暮らせるしやっぱ普通がいいよ、うん」    エンドウさんは、河童というが現在の見た目は普通の人である。伊達に長生きしてる訳じゃないので人に変化も出来る。  もう魚は食い飽きたと言い、存在が認知されてからは肉ばかり食べてるせいか細身だった肉付きがよくなり、むっちりとした30代の兄さんだが、頭部だけは薄く、たまにコップの水をたらしていたりする。   「みちるちゃん、私美人なの? まだまだイケるかしら?」    チヤさんはオレンジサワーをお代わりね、と言いながら期待を込めた眼差しで私を見た。   「美人ですねえ。艶やかな黒髪、色白の肌、濡れたような潤んだ黒い瞳。そらもう美人の代名詞みたいな要素がてんこ盛りですからねえ」    見た目は20代前半でも年齢が830歳越えてるのがネックと言えばネックだけども。  まあ見た目年齢で押し通せば全く問題ない。   「嬉しいわあ。ほら今もう金髪とか茶髪の外国の人みたいな女性が多いから時代遅れかもと内心不安で不安で」    嬉しそうに私にぎゅうっと抱きついたチヤさんに、   「チヤさん、クールダウンです。大雨になると帰りの電車困るので。平常心でお願いします」   「あらいけない」    普段は別に雨を降らせる事がないけど、喜怒哀楽の感情の強弱に合わせて雨が降るのも困りもんだな。    こないだお近づきの印にとレアチーズケーキを持って行ったら帰りが豪雨になってえらい目に遇ったわ。  男性とのデートなんてきっと屋内メインよねえ。    オレンジサワーに海草サラダも追加して、深呼吸しているチヤさんの背中をさする。     「……みちるは、どうなんだ? その……モテるだろ?」   「──はい?」    驚いて横を見ると、ノームのバスクさんが私を見ていた。バスクさんはお酒が大好きだとかで毎回欠かさずの参加だ。    私の中ではノームというのはキノコの陰からそっと覗いているみたいな小人のイメージだったが、がっしりした170センチは越えてるような普通の30代半ば位の男性だった。  ベサルチアでは家具を作っていたそうで、こちらでも家具を作る会社に勤めている。    顔立ちはものすごいイケメンという感じではないが、目が優しげで笑うと可愛らしい。それと髪が短い茶髪のせいか、後頭部の形が素晴らしく綺麗なのがよく分かり、とても羨ましい。  私の後頭部は少し絶壁気味なのである。   「まさか。モテてたら金曜の夜に仕事してませんよ。  一生結婚しないかも知れないですしね」   「なっ、何でだっ?」    バスクさんがビールのグラスを落としそうになり慌てて掴み直した。   「え? いやー、お一人様の楽なところに気づいてしまいましてね」    23歳で恋人と別れてから7年。  最初は寂しかったが、週末も全部自分の好きに使えて、女友だちとも遊べて、収入も高くはないけど暮らしていくのには問題ない。少しは貯金も出来る。    ご飯だって疲れていたらコンビニ飯でもいいし、お菓子で済ませても誰にも怒られない。    恋人がいた時にはそれなりに料理をしたりしたが、好みに合わない場合、相手も嫌だっただろうがこちらだって気を遣っていたのである。    それがストレスだったと分かったのは別れて暫くしてからだったが、多分相手が神経質なタイプだったのも原因だろう。   「この肉は国産?」 「おにぎり握る前に手を洗った?」 「刺身をスーパーで買うのは鮮度に問題がないかな」    とか、食べるだけの人間が偉そうにと思ったことも1度や2度じゃなかった。    近くに魚屋という専門店がないのじゃ。食べられないモノをスーパーで出す訳なかろう。  食中毒出したら営業出来なくなるんだから気をつけてるに決まってるだろうよ。スーパー馬鹿にすんな。  国産の肉が幾らか知ってるのかバカスカ食べ散らかしおって。少しはお金を出してから言え。  外国産だって美味い肉はあるがな。  手洗い? お握り作らんでも普通にするわい。  人をバイ菌の塊みたいに言うな。      心の中ではこんなどす黒い感情も渦巻いていた。それだからか、そんな初の彼氏も半年も持たなかった。    私にはそんな恋人のワガママを許す心のゆとりがない。これが結婚になったらもっと長い月日を毎日一緒に過ごすのだ。その上子育ても。今の世の中共働き必須だろうし、いやほんと無理無理。     「……って感じでですね、私にはとても結婚に向いてないと気づいたんですよ」    ビールを注ぎながら、注文したままほぼ口も付けてなかった自分の梅酒のソーダ割りを飲んだ。  あー、空きっ腹に響くわー。  くらりときて、慌てて近くの唐揚げを口に入れた。   「いや、しかしそれは男の方がちょっと失礼じゃないか? 聞いててムカついたぞ俺でも」    バスクさんが眉間にシワを寄せている。   「そうよー、そんな男捨てて正解よー。もっといい男はたっくさんいるんだから!」   「男尊女卑なタイプですわねぇ。それじゃ自分でやれっていったら怒りそうですわね。手を上げるかも知れませんし、みちるちゃんでなくとも長続きしませんよ」    アメリーさんやチヤさんに慰められ、   「ですよねー? 私ばかりが悪い訳じゃないですよねー?」    と一気にソーダ割りを空けた。卓上のメニュー板からお代わりを注文しようとして、食べ物がラストオーダーを過ぎていた。  飲み物もあと15分ほどだ。   「みなさーん、食べ物はもう頼めないですが、飲み物もあと15分でラストオーダーなので、頼みたい方は先に注文しておきましょう! 飲み放題プランですから飲まなきゃ損です」    皆の注文を聞いて、自分はカルピスサワーにウーロン茶を追加する。  一応もてなす側だから、最後まで飲んだくれては居られないのだ。    だが、カルピスサワーは頼まなければ良かったと後日ちょっと思ったのだが。           「バスクさんは、見た目は同世代っぽいですけどおいくつなんですかー?」    元から余り強くないのに空きっ腹に梅酒のソーダ割りを一気に飲んだので、カルピスサワーを飲む頃にはかなり酔っ払っていたようだ。   「53……522歳だ」   「いやだなー、サバ読んでも上の位が100歳単位なんですから意味ないですよー。  私が30なのを28とか言うなら分かりますけどー」    とてしてしバスクさんの背中を叩いたり、恋人が居ない事を聞き出すという失礼な事をしていたらしい。  ほぼ覚えてない。大変申し訳ない。   「いい人なのに、バスクさんも結婚が煩わしいタイプですかー?」 「いや、今まで好きになれる人がいなかったから……」   「んんん? 500年以上も独身者ですか。考えたら私の大先輩ですね。すみません偉そうに」    頭を下げた私は、テーブルのポテトフライを見て、お箸で掴んだそれをバスクさんの前に持って行った。   「はい、お詫びに【あーん】します。あーん」   「え? え? は?」   「あ、ポテトフライ苦手ですか? それじゃ止め──」   「いや、好きだ。大好きだ。くれ」   「そうですか? わーい。はいあーん」    モグモグと嬉しそうに食べるバスクさんは、やはり笑顔が可愛い。美味しい食べ物を美味しそうな顔で食べてくれたら見てる方も気分がいい。   「……バスクさんみたいな人と結婚したら、毎日美味しい食事を食べられたかも知れませんねえ」    自分もポテトフライをつまみ、モグモグする。  美味しそうにモノを食べる人とご飯を食べるのは、こちらも嬉しくいつもより美味しく感じるのだ。   「……じゃあ俺と結婚しないか?   俺は料理とか得意だし、ご飯だって毎晩でも作れるけどな。たまにみちるのご飯も食べたいけど。  子供が出来るまで共働きは……イヤだけどしたいなら構わないぞ。向こうでの貯金を換金したらかなりの額になったから別にすぐ辞めても全く問題ないし」   「わー、好条件過ぎて私には勿体ないですー」(この辺から記憶曖昧)   「……俺が嫌いか?」   「いーえ? 笑顔が優しそうで可愛いので好みでありますー。後頭部も良い形だなーと。  食べっぷりにも好感持っておりますー」   「そうか。じゃあ結婚しよう」   「まだ付き合ってないですよう、イヤですねえバスクさんてば」   「俺はずっと初めて会った時から一目惚れだから、みちると付き合う=結婚だ。どうせ結婚するんだから、デートも結婚してからすればいい」   「おー合理的ですねー。それじゃこれから末永く宜しくお願いしますー」   「言質は取ったぞ。だが浮気はしないし、子育ても全面協力するし、いいパパでいい夫になる」   「わーい、旦那様がいきなり出来たー♪」    周りのあたたかい拍手に包まれてバスクさんと抱き合ったそうだが、本当に全く記憶がない。           「えっと、すごく酔っ払ってたみたいで私……」   「結婚するって言ったぞみちるは。  まさか、俺の愛を弄んだのか?」      翌日、家に現れたバスクさんから話を聞いて顔面蒼白の私は、お詫びで何とかならないかと思ったが、どうにもならない感じである。    既に婚姻届に私の名前だけ入れれば済むようになっているのを持ってきた(証人にアメリーさんとチヤさんの名前が入ってた!)が、そもそも友人にも教えた事のない自宅アパートをバスクさんに教えていた時点で、私も内心では好意があった気がする。    だって、少なくとも全く不快ではない。     「とりあえず結婚するからって会社に1週間ほど休みを貰ったので、この休みの間に俺の作るご飯を食べてくれ。それで、俺の住むマンションにも是非遊びに来てくれ。多分2人でも充分な広さだと思うが嫌なら引っ越す。まあ子供が出来たら引っ越してもいいし」   「……私が耐えられなくなるような事があったらキレイに離婚してくれます?」    「離婚は断固拒否するが、話し合いをして俺が至らない所は直すということで許して欲しい。  大切にするし、ずっとみちるだけ愛すると誓う」        ……うん、結婚するしかなさそうだ。    だがまあ別に先々バスクさんが離婚したいと思うかも知れないし、私も嫌いじゃない。      もう両親もいないし、天涯孤独なので私の方は自分の判断でどうとでもなるが、   「バスクさん、ご両親や兄弟とかに相談はしなくていいんですか?」   「もう両親は100年以上前に亡くなったし、兄弟姉妹はいない。だからみちるが俺の家族だな」   「100年以上前だとお悔やみも言いにくいですが、家族、ですか……私も身寄りがないのでバスクさんが家族になりますね」   「そうか! お互い家族が出来て良かったな!  みちるがもっと俺の事を好きになってくれるよう努力するから、一生傍にいて欲しい。  いい家族になろう」     「……はい。いい家族になりましょう」        家族という存在が改めて出来るのは、じんわりと心に沁みるものがあった。    まあいいだろう。    こんな家族のスタートがあっても。          その夜食べたバスクさん特製ビーフシチューは、驚くほど美味しかった。      
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