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◇
すぐに起きられると思ったのだが、気がつけば爆睡。まだ半分しか覚醒してなかった頭も、部屋を満たす甘酸っぱく香ばしい香気に誘われて……。慌てて身体を起こそうとしたものの、それはあっさり制しされてしまう。
「……シャロン?!」
「よく寝てたから」
「いやいや……すぐ起こせよな」
「欲に勝てるほど――オレは、よくできた人間じゃないよ」
シャロンのどこか物憂げな表情。しかしそれはすぐ鳴りを潜めて、小皿に取り分けてあるチェリーパイを俺に差し出す。
「ありがとう」
「それより食べて」
「おう」
シャロンに促され口に運ぶ。その瞬間、口いっぱいに赤い実が優しく広がっていく。甘酸っぱさがほどよく調整されていて……バラジャムだ。前チェリーパイが異世界だって騒いでたら、もう一味足したからと微笑んでたシャロンを思い出す。その時に教えてくれたのだ、べつに減るわけでもないからと。また新しく構築し直せばいいからって。
「その顔好き」
「食べてるだけだぞ?」
「それだけでも。メノウは特別」
…………あまい。あますぎる。言葉も、その笑顔も。
糖分の過剰摂取になりそうだ。
チェリーパイの味が、後半あまあまになってしまったのは内緒にしておこうと思う。
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