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その6
その6
バグジー
「…今の人は、紅組の新しいリーダー、嵯峨ミキさんですよ。なんでも、剣道とフェンシングでは敵なしみたいで…。あの紅丸さんから、跡を継いだばかりだって聞いてるんですけど…。まさか、紅組のトップが来てくれるなんて…」
「…今日は南玉連合の矢吹鷹美総長補佐が立ち会ってくれるはずだったんですが、なんか、南玉の方でも揉め事が起こったようで…。急きょ、嵯峨先輩が駆け付けてくれたんです。身内でも大変な時なのに、こんな私らの為にわざわざ…」
チームの子は、二人とも涙ぐんでいた
...
「…東京と埼玉の都県境は凄いんですよ!あの嵯峨さんは女眠狂四郎、南玉総長は赤い狂犬…。他にも、男なんか束になってもかなわない猛女がいっぱい結集しています。今や、千葉だけでなく東京都下、神奈川のあちこちでも、南玉や紅組にあこがれて、続々と女のチームが出来てるんです!」
「…柴崎さん、あの都県境の辺りって、大昔から猛る女が生まれ育つ土地柄らしいんですよ」
「…あそこには吸い寄せられるように、日本中から気性の激しい女たちが集まってくるんですって。逆髪神社ってとこでは、強い情念を持つ女がお参りすると、神様と対話ができるって言われてるんですよ。私たちも一度だけお参りしましたが、対話は無理でした…(笑)」
女眠狂四郎…?猛る女…?逆髪神社…?
私はガラにもなく、コトが終わった後、カウンターで少女二人に囲まれ、”おとぎ話”に夢中で聞き入っていた
夢中になって…
...
「…まあ、こんなところだよ。私が都県境に興味を持つようになったきっかけはな」
「そうか…。その時は嵯峨ミキさんがね…」
麻衣は目を細めて、うつむいたまま、そう呟くようだった
神社で別れ際に聞いたところ、あの当時、相馬豹一の遠縁の娘とされていた麻衣は、南玉や紅組を巻き込んで、この都県境を引っ掻き回し驚天動地に陥れていたらしい
あの日も、その絡みで、南玉がばたついていたんじゃないかってことだった
...
そんな麻衣には、最後に私の今の結論を言っておいた
「麻衣…、お前がイカレ娘だってのは、ここで散々耳にした。とんでもない魔少女だともな。だからこそ、大打には対抗できると私は期待していた。はっきり言わせてもらう。今のお前だと、大打には及ばない」
「…」
「まあ、その基準はイカレ度だ。お前、撲殺男だか撲殺人だか…、相和会の武闘派と一緒になるってことで、自分の心の奥底に、なあなあとかってんじゃないのか?」
「…」
「…いいか、相手はお前以上にイカレてる。私から言わせりゃ、異常だ。間違いなく、超えちゃいけない”一線”を超えてる。…何十年か経って、奴の行いをこんなの常識だよと、その辺のガキに言わせるような世の中になったら、闇だぞ、この国は…」
私は過去、記憶にないほど多弁だった
...
「バグっち…、言ってくれるじゃん。…あのさ、私のダーリンがさ、今の大打って、自分の若い頃と一緒だったかもってさ…、そう言ったんだよ、私に。…それをね、私は絶対違うと証明したいんだ。そんなもんだって!私なんかが、命をかけてやれることってのはさ!悪いが、おたくの言う将来のこの国だとか、闇だとか、眼中ねーわ」
「…わかった。いずれにしても、静かに狂った男を止める。それに異論はねえんだろ?」
「ああ、ない!」
...
私と麻衣の神様を背にした打合せは、ケンカ腰で終わった
だが、気分は決して悪くなかった
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