未来へ

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 ついにその時が来てしまった。  ベッドで横たわるご主人様の心音が次第に弱まっていく。一つ一つの鼓動も弱くなっていき、その感覚も開いていった。  最後は心音の余韻が水面に広がっていくように、静かに息を引き取った。  私はこれで孤独となった。  残り七十年の孤独。  目の前のご主人様の顔を眺めると既に懐かしさが蘇ってきた。  決して横暴な方ではなかった。優しい穏やかな方だった。  その人ともう話せなくなったのだと思うと胸が締め付けられる感じがした。初めて感じる胸の苦しさ。これが感情というものなのか。  私に七十年の孤独が耐えられるだろうか。  耐えられない日が来たらこのレシピを思い出せばいい。いや、きっとこのレシピのことはかた時も頭から離れることはないだろう。  あとはどれだけ私が耐えられるかだ。  ご主人様はニ十年我慢した。  私はいったい何年我慢できるだろうか。  目の前のご主人様が少し笑った気がした。
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