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好き
【直人side】
最後の学活が長引いた。
怜と、サッカー部の最後の体験の日なのに。今日、本入部届を出すことになってる。
もう他のクラスはほとんど帰ってしまってて、廊下に出たら静かだった。
先、行っちゃったかな。
思いながら、怜のクラスを覗いてみたら。
怜が、窓際の自分の席で、一人で座ってた。
「れーい、ごめん、お待たせ」
「あ。直」
持っていた紙をさりげなく鞄にしまって、怜が立ち上がって、直人のもとに歩いてくる。
「――――…? 何か、隠した?」
聞いたら、怜がちょっと嫌そうな顔をした。
「隠してはない」
「…うそ、オレがきたらしまったじゃん」
「別に隠したわけじゃねえよ。しまっただけ」
「…だから、なにを?」
「…名前書いてない、手紙が鞄に入ってたんだよ」
「手紙って?」
「……佐藤くんが大好きです、だってさ」
「…へー…」
「…大好きだから、応援してます、サッカー頑張ってください、みたいな感じ」
「まだ入学してすぐじゃん。 早すぎない?」
「…早いから別に、告白って感じでもないんだろ。無記名だし」
「――――…なんか…怜って落ち着いててむかつく」
「…むかつく??」
怜がちょっとむっとした。
「普通、ラブレターもらったら、もっと喜ぶじゃん。なに、その、さらーっとした感じ」
「…なこと言ったって…」
「言ったって?」
「…別にこれ、返事も求めてないし。誰かも分かんねえし」
怜がまたしれーっとした顔でそんな事を言うので、直人は膨らんだ。
「なんでこんなしれーっとしたやつが良いんだー!」
「…しれーっとって…」
怜が苦笑い。
「絡むなよ。 誰かも分かんねー手紙もらったって、別に嬉しくないだけだって…」
怜がそんなことを言ってて、まあ、それも分からなくはないのだけれど。
「ずるーい」
次に出てきたのは、ぽろっと本音。
【怜side】
直人のクラスを待ってたら、同じクラスの奴は誰もいなくなった。
そういやなんか、さっき、見慣れないものが鞄に入ってたっけ。
「――――……」
名前も何もない、手紙、
カッコイイから、大好きです。
カッコいいから、ねー…。
特に何の感情もわかず。誰だこれ、なんて思っていたら。
直人がやってきてしまった。
さりげなくしまったはずが、意外と聡かった。
白状させられて、そしたら、ずるーい、と言い出した。
「いいなー、怜、モテて」
「――――…そうか? 何がいーの?」
「…何がって。 モテたほうがいいじゃん」
「なんで?」
「なんでって…… 誰かが自分のこと好きでいてくれるって、嬉しいじゃん」
「――――………」
あまりに素直なその一言に、まじまじと、直人を見下ろしてしまう。
「……なに?」
あんまり見てたら、少し引きながら、直人が首を傾げてる。
「――――…オレ、おまえのことが、好きだよ」
「えっ」
完全に固まった、直人。
「――――………嬉しい?」
数秒後、そう聞いたら、はっ!と気づいた直人が、怒り始めた。
「…っっ… またからかってるだろ!!」
「つか、…恥ずかしいこと真顔で言うからだよ」
「…っくそ。怜のばーか!!っばーか!!」
「がきんちょか…」
冷めて答えると、もう、本当に悔しそうで。笑ってしまう。
「オレさー」
「え?」
少しトーンを変えて話し出すとすぐ、普通の顔で、怜を見上げてくる直人。
こういうとこが、少し、好きだったりする。
「カッコいいから好きとか言われんの、嫌い」
「え?なんで?」
「見た目好きとか言われても… そんなの上っ面だしさ…」
「んー?……まあそうだけど。……でもオレだったら、外も好きになりたいけど… 見た目を少しも好きじゃない奴、好きなんて言えないし」
「――――…」
「…そりゃ外だけ見てる好きは軽いかもだけど… 女子ってシビアだから、外見だけで好きとか言ってる訳じゃないと思うけどなー。 カッコよくてもモテない奴、いたよ?」
あははー、と笑いながら、直人が言う。
「怜を好きな子は、ちゃんと中も好きなんじゃないの?」
「さあ。分かんねえけど…… 直のくせに、なんか生意気」
「あっなんだよそれっ。 もー。むかつくなー」
ぷー、とまた膨らんでる。
「――――…じゃあ、直は、オレのこと好きか?」
「好きじゃない、むかつく」
「…ふーん」
まあ。いいけど。
特に何も言わず、サッカーシューズの紐を結んでいたら。
「………オレにペース合わせてくれるとことか。放送委員とか、ほんとは好きじゃないのに一緒にやってくれるとことか? 優しいとことか…」
「――――…直?」
「…そういうとこは、まあまあ好き」
「――――……まあまあって…」
ぷ、と笑う。
「あと、見た目も、まあまあ好き」
ぷ、と笑ってしまう。
「…お前は絶対からかうから、もう何にも言うなっ」
まだ何も言おうとしてなかったのに、直人は、だーーーっと走り去っていった。
………面白いなー…あいつ。ほんとに。
――――…何だか、心の中があったかい気がした。
(2021/1/14)
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