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弱い
【怜side】
「今日の放送は、1年2組佐藤 怜と」
「1年1組 小坂直人でした!またねー」
そこまで言って、1秒2秒。怜は、放送中のスイッチを切った。
今日は放送委員の初仕事。
学校の給食のプチ情報と、行事の紹介原稿を読んで、あとは直人の好きな曲説明と曲を流して、以上。10分弱の放送。
放送準備室にいた、担当の教師が、「OK」と言って、直人が大喜び。
「いいんじゃないか、初めてにしては。 原稿も聞き取りやすかったし。音楽もよかったし。次から二人で出来そうだな?」
褒められて、めちゃくちゃ嬉しそうな顔の直人。
「カギ閉めてかえしとけよー」
「はーい」
教師が出てって、二人になった瞬間、直人がニコニコ笑顔で、怜を振り仰いだ。
「怜の声って、マイク通して聞くと、すげーいい声」
「何それ、普段よくねーみたいだな」
苦笑い。
「いつもいいけど、なんかちょっと大人っぽく聞こえる。皆にはどう聞こえたんだろうね」
放送室のなかには音は流れないので、スピーカーを通してどう聞こえたかは分からない。
「怜は楽しかった?」
そう聞かれて、「まあまあかな」と答えた。
よかった、と直人が笑う。
嬉しそうな表情に、こっちまで嬉しくなって、ふ、と笑った。
放送してる間も、ほんとに楽しそうで。
そんな姿が見れたから、一緒にやって良かったなと思った。
【直人side】
すっげー楽しかった。
最初緊張してたのは、なんか怜が横で涼しい顔しててくれたから、なんだか落ち着いた。
好きな曲は、去年流行った、大好きな曲。
何を流すか決める時、怜は、お前が好きな曲流したくてやりたかったんだろ、と言って、好きに決めさせてくれて。
たのしかったなあ。
怜の、「まあまあ」は、きっといい意味。 最初やりたくないって言ってた位だから。まあまあならokだろうと思う。
うきうきしながら教室の前で怜と別れて、1組に入った。
「おかえり、直人ー」
「ちゃんと聞こえたぞー」
「オレもあの曲好きー」
なんて、掛けてくれる皆の声に答えながら席について、急いで給食を食べ始める。
隣の席の幸也が、おかえりーと笑った。
「直人めっちゃ楽しそうだったな」
「うん、楽しかった」
「もう一人って、佐藤だよな?」
「うん」
「佐藤の声って、流れてると、すげー感じちがった。大人っぽいっつーのかな、イイ声」
「あ、やっぱり?」
「お前が一緒にやるって聞いてなかったら、佐藤って分かんなかったかも。ちょっと、スピーカー越しの声、違った」
「へーそうなんだ。オレもこっちで聞いてみたかったなあ」
「それじゃ一緒に出来ねーじゃん」
「まあそうなんだけど」
そっかー。やっぱりそうなんだ。
まあ、いつもも、イイ声してるけどね。いつも、涼しい感じの。低い、優しい声。もう声変わりもしたって言ってたもんなー。
怜はなんて言われてるのかなークラスで。
なんて思ってたのだけど。
給食後の掃除タイムに会った怜は、すっごく嫌そうな顔をしてた。
「あれ、怜どうしたの?」
「…なんかすげえからかわれたぞ。良い声だのなんだの」
「…良い声なんだから、いいじゃん??」
「…やたら、いじられんの、嫌い」
「いじられてるわけじゃないよ、だって、幸也もイイ声って言ってたし」
むー、とした顔で、怜がむくれている。
「…オレは、すごく楽しかったのになー」
「――――……」
「怜の声、改めてイイって思ったのになー…」
思うまま伝えてると、怜がふー、と息を吐いた。
若干、顔の険しいのが取れた気がして、直人が笑うと。
「…オレ、お前に、ほんと弱いよな」
「――――……」
「ほんと、なんでだろ」
怜が、困ったように苦笑い。
でもまっすぐ見つめられて。
――――… なんか、気持ちの奥の方が、きゅ、と締め付けられる。
「まあいっか…。今度再来週だよな。 曲きめとけよ」
「…うん!」
怜と別れて掃除に戻る。
さっきの、締め付けられるみたいな感覚が、よく分からなくて。
首を傾げた。
(2021/1/17)
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