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モテる
【怜side】
「怜、おはよーっ」
毎日。
朝、元気な直人が後ろから走ってくる。
「…おはよ」
ほんと、元気だな…。
「昨日、ありがと」
「…ああ」
昨日、一緒に数学勉強したっけ。
「数学のセンセにもう分かったって自慢してくる」
「自慢するとこじゃねーから。当たり前」
ぷ、と、苦笑い。
「あ、直人くん、おはよー」
「おはよー」
「ああ、おはよ」
「昨日、ありがとね」
「あ、私もありがとー」
「ん?」
「英語のノートとプリントね」
「体育の片付けかわってくれて」
「ああ。 全然いいよー」
直人が笑顔で答えると、話しかけてきた女子たちは、友達と先を歩いていった。
「なに、いまの」
「ん? ああ。英語係のペアの子休みで、集めるの大変そうだったから、手伝ったのと…… 体育の片付け当番だけど、給食当番かぶってたから、替わった。それだけ」
「頼まれて?」
「…ううん、別に。 ノートは見るからに苦戦してたし。 体育の片付けは、給食当番行かなくちゃーて言ってたから…」
「…なるほど」
…直らしい。
…誰にでも優しいからモテるって、守が言ってたっけ。
まあ、なんか分かる気がする。
人の嫌がることこそ、率先してやりましょう、とかよく言うけど。
人が嫌がってることも、嫌だと思わず、せっせとやる感じ。
部活体験に行っても、片付けとか、全く嫌がらず、誰よりも早く動く。
直人がせっせと動くから、周りも動かざるを得ないというか。
――――……直人は、ちゃんとやれよとか、一切言わないんだけど。
すげえ、特殊…特別。不思議。な奴だなと、いつも思う。
【直人side】
怜と昇降口で別れて、階段を駆け上った先に、俊を発見。
「俊、おはよー」
「またお前、佐藤と来てたろ。後ろに見えた」
「家近いんだよ。来る道、一緒なの」
「あいつってさー」
「ん?」
「直人としゃべってる時もクールなの?」
「クール?」
「なんか…冷めた感じ?」
「あー…うん、冷めてるっていうか… うーん、 がちゃがちゃしてないって感じ? 大人っぽいかな」
「それそれ」
「ん?」
「昨日、前を歩いてる女子たちが、佐藤くんがクールでカッコいいって騒いでてさ」
「へー」
「冷めてるだけじゃねえの? カッコイイのか?」
「うーーん… 冷めて… …うーん、冷めてる訳じゃないんだよね」
うーん、と悩みつつ。
「優しいし。 うん、カッコいいんじゃねえ? ていうかさ、見た目だけでもカッコいいから、あれで大人っぽいと…モテるだろうなー」
そういえばこないだも、手紙とかもらってたし。
「くー。なんか、むかつくー」
「…なんで??」
「…モテるってそれだけでむかつく」
俊の素直すぎる発言に、ぷはは、と笑って。
「まあまあ。オレは俊も好きだからね」
「…直人―」
むぎゅ、と抱き締められる。
「ぐえ。 ちょ、きもい、やめ――――…」
俊の重みによろけた瞬間。
腕を掴まれて、支えられた。振り返ると、怜だった。
「あ。怜…」
「…あぶねえっつの」
「…ありがと」
「――――…はー。また佐藤か。つか、何なのその、助け方」
「は?」
「そーいう、イケメンしかしなそうな助け方、直人にしないでくれる?」
「……意味わかんねえなこいつ」
「俊、ほんと意味わかんないよ、落ち着いて」
怜から離れて、俊の背中をポンポンする。
「怜、ありがと、またね」
怜と別れて、俊をクラスに押し込んだ。
「もー、何言ってんの?」
「だってなんであのタイミングでうしろから来るわけ?」
「だって、下まで一緒だったんだから、あそこで止まってれば会うの当然っていうか…」
「まあそうだけどタイミング的に」
「何が言いたいの」
「なんか、あいつって、いつでもカッコいい感じでくるから、腹立つ―」
「なんだそれ」
俊ってほんと面白いな。
文句言ってるけど褒めちゃってるし。
…まあ。
――――…よろけたとこ、あんな感じで、すぐ助けてくれるとか。
確かにカッコいいなあとは思ってしまうけど。
「俊、朝からどしたー?」
クラスメートたちが、騒いでる俊のもとにやってくる。
「…怜がカッコいいからって、怒ってる」
直人が言うと、皆、大笑い。
「しょうがないじゃん、佐藤くんカッコいいし」
聞いてた女子たちからも、そんな発言。
皆の話を聞きながら。
朝からこんな面白話になってたことを、後で怜に言わなくちゃ。
なんて思った。
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