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負けず嫌い
【怜side】
土曜。服を着替えていたら、電話が鳴った。
「もしもし? 守?」
『あ、怜? 今日暇?』
「ああ。髪切りに行くけど。その後なら」
『良かった。 直人とオレのサッカーチームが今日河原で練習してるんだけど、OB参加で、下の奴らの試合に参加すんの。ゆるいから、知らない奴がいても大丈夫だからさ。怜が嫌じゃなければ、来ないか?』
「――――…ゲームに参加するだけだろ?」
『そう』
「行く。部活来週からだから、体がなまってた」
『ok、じゃあ髪切ったら、直接来て。飲み物とシューズだけでいーから。ボールはあるからいーよ』
「分かった」
着替えていた私服を脱ぎ捨てて、Tシャツとロングパンツに着替えると、床屋の開店と同時に入るつもりで、家を出た。
【直人side】
「まーもるー! 久しぶりー!」
グランドに下りていくと、守と後輩たちの姿。
「直人だー!」
このチームは、全員、上下関係なく、名前は呼び捨て。
1年生も 6年生を呼び捨てする。
いいか悪いかは分からないけれど、仲良くはなれる、気がする。
なおとなおと、とあちこちから呼ばれて、ああ、もう、皆可愛い、なんて思ってしまう。
コーチ達とも話して、体操を始める。
「あ、怜も来れるってさ」
「ほんと?」
そっか、嬉しいな。
体操とストレッチをして、グランドを2周する。
ちょうど走り終えた所で、怜がチャリをとめてるのが見えた。
「守、ちょっと怜のとこ、迎えいってくるねー!」
「おう」
怜のところまで猛ダッシュ。
「怜おっはよー!」
「また――――…元気すぎ」
「怜が来たからだし」
「――――…あそ」
ぷ、と笑われる。
「あれ? 髪切った?」
「ん、今切ってきた」
「短髪、超似合う。カッコいいなー怜」
「――――…はいはい」
怜がチャリにカギをかけて、ペットボトルを持った所で、直人は歩き出す。
「とりあえず、コーチに声かけにいこー」
「ああ」
「怜がこのチームでサッカーしてくれるとか、嬉しすぎ」
「――――…」
「ありがとな、来てくれて」
ふ、と笑って、怜が見つめてくるので、超笑顔になってしまう。
【守side】
怜が来た瞬間、直人が猛スピードで走り寄っていった。
様子を見てると、笑顔全開で、怜にまとわりついてる。ように見える。
怜って、ああいうの、苦手だったよな。
直人は良い奴だから気が合うと思ったけど、直人のあの感じだと、めちゃくちゃ懐いてる感じ。 懐きすぎると、ウザがるのが怜だからなあ…。
と、思ったけれど。
怜が、直人を見つめて、ふ、と微笑んでる。
「――――…」
あんな顔、したっけ、怜。
珍しい顔、してる。
コーチたちに軽く挨拶した怜が、近づいてきた。
「守、久しぶりだな」
「元気そうだな怜」
そんな風に話してると、コーチと話していた直が、遅れて寄ってきた。
「なー、オレらどう別れる? 5年対6年の試合に混ざるって。
3人だから…2と1に別れて、コーチがひとり助っ人入るって言ってたよ」
「別にオレはどっちでもいい。直、希望あんの?」
…「なお」?
「んー、守は? 5年と6年どっち入る?」
「あーオレもどっちでも…」
「じゃーグーパーしよ」
直人が言い、怜と直人がペアで5年、守はコーチと6年のチームに入ることになった。
前後半15分ずつの、30分試合。
やっぱり1学年の技術の差なのか、怜と直人がかなり頑張ってたけど、6年が2点差で勝利。
終わった瞬間、メインの5年生たちよりも悔しそうに、直人がくっそー!と叫んで、下に座り込んだ。
「あー!なおとがまた泣いてる!」
「泣くなよー」
5年にそんな声を掛けられて、「うるせー、泣いてないし。つかお前らが悔しがれよ!!」なんて、叫んでる直人。
「お前、また泣いてるとか言われてるけど。5年に…」
ぷぷ、と笑って。
怜が直人の隣にしゃがむ。
「ほんと負けず嫌いだな、直」
クスクス笑ってる怜と、むくれてる直人。
その二人の隣に、守も座り込んだ。
「――――…お前ら、超仲良い?」
「「え?」」
二人同時にそんな声を出し、顔を見合わせてる。
「だって、直って呼ばれるの嫌がってたのに、文句いわねーし、 怜がやたら優しいし?」
「――――…普通だけど」
「あ、なお、は… 怜がそれがいいって言うから…」
怜は無表情で。
直人は、なにやらあわあわ言ってる。
可笑しくなってきて、守は、ぷ、と笑った。
「まあ、仲いいのはいーけどさ」
なんか、面白い。
オレの、小学校時代一番仲良かった奴と、サッカー部で一番仲良かった二人が、こんなわずかな間に、こんな仲良くなってるなんて。
なんか不思議。
そこから、1年対2年、3年対4年、さらには混合チームの試合にフル出場で。現メンバーの誰より走って、終わった頃には、一番真剣に走ってた直人が、つかれたー、と言って、ぶっ倒れた。
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このシーン、続きます(^^)
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