風邪1日目

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風邪1日目

【怜side】  今日は朝から直を見ない。  昼まで会わない事って、そうそうない。  給食の準備中、直人のクラスの友達に、「今日、直人は?」と聞いたら。 「あ、今日、直人は休みだよ」 「なんで?」 「風邪ひいたって」 「…あー…そういや昨日喉痛いとか言ってたな…」 *****    六時間目まで終わり、部活中。 「……静か」  授業には直人は居ないから、そこまで気にならないが、部活には必ず居るのが、今日は居ない。  あいつ、絡んでこねーと、こんなに静かなのか…。  直が絡んでこようが、部活でやることは決まっているのだから、普通なら気にならないと思うのだけれど。  ――――…そっか、朝登校の時から、居ないしな…  一日、静かなんだな…。 「え? 怜、今なんかいった?」 「……独り言。つーか… なんか、再確認したとこ…」 「? 何それ?」 「再確認って何を?」 「…別に。なあ、陸。 直人って熱でもあんの?」  直人と同じ小学校出身で、今も同じクラスの陸に聞いたら。 「ああ、あいつ小学生ん時から、よく高熱だして休むんだよね。扁桃腺が腫れやすくて、腫れると高熱んなっちゃうらしいよ」 「――――…へー…そうなんだ…」 「明日来れるといいけどな。でも一回熱出るとなかなか下がらないみたいで」 「――――…なあ、あいつんち、知ってる?」 「知ってるよ」 「いつも、薬局の前あたりで別れて、直はそこからまっすぐって言ってたけど…」 「薬局から、歩道の右側の家見ながら歩いていけば、表札見えるよ。駐車場の隣だからすぐわかるんじゃないかな」 「分かった。サンキュ」 「怜、行くの?」 「気が向いたら、行くかも」 「何だよそれ」  陸はそう言って笑う。 「――――……」  ――――……気が向くに、決まってるけど。  部活が終わって、家に帰って、私服に着替えた。 「母さん、ちょっと見舞いに行ってくる」 「お見舞い?お友達?」 「そう。チャリで五分くらいんとこにいるから」 「ゼリーでももってく?」 「あー…うん、一応」  個包装されたこんにゃくゼリー。  食うかな…?   家を出て、薬局から少し進んで駐車場の隣。  二階建ての一軒家に、小坂の表札。  チャリをとめて、チャイムを鳴らす。 「はい」  明るい声。 「こんにちわ。直人くんのお見舞いにきたんですけど…」 「あら。 ちょっと待ってね」  数秒して玄関が開いた。 「わざわざありがとう。もしかしたら寝てるかもしれないけど、どうぞどうぞ」 「お邪魔します…」  可愛らしい感じのお母さん。  ――――…直、なんか、似てる。 「もしかして、怜くん? 違うかな?」 「――――…?…はい。そうですけど…」 「最近よく直人の話に出てくるから」  クスクス笑うお母さんの後をついて、 二階の部屋についた。 「寝てるかも… 起こしてもいいからね」 「少し居て起きなかったら帰ります」  小声で答えると、直人のお母さんは、ふふ、と笑って頷いた。 「――――…」  直人は、ぐっすり、眠ってた。 「――――…」  静か。  ――――…目。あかねえかな…。  少しの間、直人を見下ろして。  起こさないでおこうと思って、帰ろうと思い、ドアを開けた。  なるべく静かに開けたのに。  ぴく、と直人が動いて、不意に、目を開けた。 「――――…………え。怜???」 「――――……はよ、直」  その目が開いて、その声が、自分の名を呼んだのが、不思議な位嬉しくて。  直人のベッドわきに戻った。 【直人side】  昨日喉が痛いと思ったら、夜中にはまた発熱。  扁桃腺の腫れるのには、どうにも勝てない。  小さな頃は毎月のように高熱を出していて、最近は、二~三カ月に一回くらいにはなったので、大分頻度は減ってきたのだけれど、一旦熱が出たら、なかなか下がらない。  高熱なのでもうぐったりで、休んでる間、大体寝てる。  起きて、喉に染みないものを食べて、また寝る。  ふと目覚めたら。  ドアのところに、怜が立ってた。  幻??と思ったけれど、呼んでみたら、怜が笑って、ベッドに近づいてきた。 「はよ、直」 「…今何時? 怜、なんでいるの?」 「今18時半位。 見舞いに来た。声、枯れてんな」 「ん、喉、痛くて」    ベットの脇、立膝で座って。  直人の額に触れて、怜は顔をしかめた。 「…もう帰ろうかと思ってたんだけど…。 な、お前、熱高すぎ…辛い?」 「…慣れてるから…意外と大丈夫……部活は?」 「終わってから来た」 「…ありがと…」 「――――…いつもこんな、熱出すのか?」 「最近出してなかったから…久々かな…中学入って初めてだよね」 「…ああ」 「…怜、来てくれたんだ」 「……何笑ってんだ?」 「なんか、今日は怜に会えないなーて、思ってたから、嬉しくて」  素直に思ったまま言ったら、怜は少し無言。  その後、「……お前いないと静かすぎ」と、言った。 「…なにそれ。オレがうるさいやつみたいじゃん」 「…うるさいだろ」  クスクス笑って、怜が言う。 「…うそ。早く良くなれよ」 「…うん」 「すげー、おでこ、熱いし。オレ、そんな高い熱出したことねえから、よくわかんねえけど…辛そう」 「……」 「明日も休みだろ?ゆっくり寝てろよ」 「…うん」 「母さんがゼリーもってくかって。 食べれる?」 「うん。食べる。ありがと…」 「おいとくな」  枕元にゼリーをおいてくれる。 「…直、アイス、何が好き?」 「…バニラ、かな…」 「OK。明日な」 「ありがと、怜…」  ――――…怜、優しい。  ふわふわ会話をしてると、あくびが漏れて。  そしたら、怜が、そっと、頭に触れた。 「…ねむい?」 「――――…うん。ちょっと…」 「…いいよ、寝て。寝たら帰るから」 「………うん…ありがと、怜……」 「…ん」  ふ、と怜が、笑む。  少しの間、会話をしてたんだけど、  結局眠気に負けて、眠ってしまった。  夜、目が覚めて。  怜のこと、ぼんやり思い出して。  枕元のゼリーに、笑んでしまう。  ――――……怜…なに、してるかなー…  そんなことを思いながら、また、眠りについた。 (2021/2/10)
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