風邪2日目

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風邪2日目

【直人side】  38.8℃。  まだこんなに熱あんのか… 「直人、どう? 何度?」  黙って差し出した体温計に、母が眉を顰める。 「下がらないわね…熱さまし、飲む?」 「――――…いいや、寝ちゃう…」 「薬と水、おいとくから、辛かったら飲んでね。 次目が覚めたらご飯持ってくるから連絡して」 「うん、わかった…」  返事をすると同時に、眠気に襲われる。  今さっき目が覚めたばかりなのに。  ――――…ぐっすり眠れなくて、熱くて、寝苦しくて、目が覚める。  何度も目が覚めて、また眠って、また目が覚めて。  ずっと、眠い。  母が出ていくのを確認する前に、もう、眠りについていた。 【怜side】  ――――…寝てる。  寝てんのに、なんか、疲れた顔してる。  アイスを買ってきたけど、寝てるならしまってもらおうと思って、直人の母に言ったが、今日まともにご飯を食べてないから、食べさせてあげてほしいと言われた。寝てたら、起こして良いと。  ……て、言われてもな…。  ぐったりしてる感の直人を、起こす気がしなくて、困って見下ろす。  そっと、額に触れてみた。  あっつ…。  ………こんなに熱くて、人って平気なのか?と思うほど、熱い。  自分がほとんど熱をだした記憶がないせいで、こんな熱い額に触るのは、初めてな気がする。  顔の横に、おそらく額を冷やすための冷却シートみたいなものが落ちてるから、さっきまでくっついていたんだろうけど――――…  ふと、足元に、その冷却シートの箱があることに気付いた。  一枚取り出して、貼ろうか迷う。  冷たいから起きちまうかな… でも起こしてアイスとか…いやでもやっぱり起こすのはどうなんだ……。 「――――………れ…い……?」  掠れた声が、して。  直人に目をむけると。ぼんやりした表情。 「直… 大丈夫か? これ、貼るぞ?」 「…ん」  ベッドの脇に膝立ちして。冷却シートを額に乗せた。 「いつ、きた…?」 「いまさっき。熱、まだ高いな」 「…ん。まあ…いつも、2.3日は下がらないから…」  少し体を起こして、直人が水を飲んだ。 「ありがと… 今日も…」 「――――……お前、飯食ってないの?」 「んー…うどん、少し食べたよ…」 「少しって?」 「……二本くらい…?」 「…食べた内にはいんねーな…」 「喉がいたくて、飲み込むのが辛いんだよね… 水も、痛い」 「あ。…アイス、食べるか?」 「――――…あ、ほんとに、買ってきて、くれたんだ…」  きついんだろうに、少し、微笑む。 「食べる…」  そう言うので、ふたを開けて、アイス用のスプーンでほんの少しすくって、口に入れてやる。 「……なんか…照れるなー…」  瞳を緩めて、直人が笑う。 「…動くのもだるそうなんだから、おとなしくしてろ」 「――――…ん…」 「たべる?」 「うん」  ぱく。  小さい、一口。 「喉にしみる?」 「ううん。…つめたくて、気持ちいい」 「…ほんとか?」 「うん…しょうゆとか…は、しみて痛いんだけど…。バニラアイスは平気…」 「いる?」 「うん」  ぱく。  元気に食べるというよりは、ゆっくり溶かして、飲み込んでる感じ。 「…病院行った?」 「うん。いつものだから…解熱の薬だけなんだ。 扁桃腺の腫れが引けば治るし」 「――――…ほんと、早く、元気んなれよ」  しみじみ言ってしまう。  …こんな、直、見てるのが辛い。  1/5位食べた所で、もういい、と直人が言ったので、一階に下りて、直人の母に、残りを託して、また二階に戻った。 「――――……母さんがさ …」 「ん?」 「…怜のこと、カッコいい子ね…て、言ってた」  クスクス笑う直人。 「――――………あ、そ…」  思わず、直人の頭に手を置いた。  よしよし、と撫でる。 「よく出すって言っても、…辛いよな…?…」 「――――……」 「おでこ、それ貼ると気持ちいいのか?」 「…うん。ひんやりする」 「そっか」  よしよしよし。  その髪をさらさらと撫でていると。  直人の熱い手が、怜の手を掴んで、止めた。 「恥ずかしいから… 熱上がる…」  怜の手を、ぎゅ、と両手で抑えて、ころん、と横向きに寝転がる。 「…手、あっつ…」  その手をぎゅ、と握り返してしまう。 「オレの手、冷たくて気持ちいいだろ?」 「うん――――……」  頷きながら、直人が、ふ、と息を吐いて、また目を閉じる。 「辛かったら、目、閉じてていいよ」 「――――…うん…」  はあ、と吐いてる直人の息が、握られたままの手に当たる。  それすら、熱くて、怜は眉をひそめた。 「――――……れい…」 「…ん?」 「――――………… れい… ありがと……  だいすき…」 「――――…………」  浮かされるみたいな言葉。  びっくりして、直人を見つめていると。すぐに、すう、と眠り始めた。  ――――……ちょっと、びっくり、した。  ――――………大好き、か。  ……まあ、知ってる。分かってる。  もちろん、オレだって、こいつのこと、かなり好きだし。  じゃなきゃ、こんな、構う訳ない。  少しドキドキする気がする。鼓動が早い気が。  両手で握られた手が熱すぎて。空いていた片手で、直人の手を包む。 「――――……」  早く、よくなれよ。  いつもみたいに、うるさいくらい、元気すぎな直が良い。  自分の手が、直人の熱ですっかり温まってしまった頃。  そっと直人の母がやってきて。  怜の手を握り締めて寝ている直人を見て、「あら…」と、クスクス笑った。  そっとその手を外させて、布団の中にそっと押し込んで。  寝ている直人を見つめてから。部屋を出た。   (2021/2/11)
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