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朝
【直人side】
昨日の夜、守から入った連絡。
「怜と話したんだって?」
そうlineが来てたけど、面倒くさくて、電話を掛けた。すぐにつながった。
「ごめん、電話の方が早いと思って」
「ん、いいよ。怜に会ったんだな」
「うん。なんか、守の幼馴染で仲良しって聞いてたからさ」
「うん?」
「守みたいなやつを想像してた」
「オレみたいって?」
「うーん、優しい、明るい、楽しい?」
「はは。すげーほめてる」
「だから、なんか、イメージ違った」
「どんなイメージ?」
「んー… とにかく、カッコイイ?」
「あ、また褒めてる」
「なんか、オレの友達が走って佐藤にぶつかって転んで、そんで絡んだんだよ。あほなんだけど…」
「うん。そんで?」
おかしそうに笑って、守が聞いてくる。
「そしたら、佐藤からさ、廊下はしるなって小学校で習わなかった?みたいな、超冷静な突っ込みが…」
「はは、怜らしい…」
あ、そうなんだ、あいつらしいんだ。
「オレの友達はさ、なんだとー!みたいな、すっごい熱くなってるのに、すごいクールでさ」
「うん、そういう奴。ちょっと言葉が足りないのがまあ欠点かなーて感じ。でも基本、良い奴だから」
「うん。 守が言うなら、そうだと思う」
「なに、その信頼感」
クスクス笑う守。
「いや、だって、そうだから」
笑って返して、少しお互いの中学の話をして、電話を切った。
守が言うなら、絶対良い奴。
小学校6年間のサッカーチーム。土日祝日、朝から夕方まで、ほとんどを一緒に過ごした。途中入部、退部、色々メンバー入れ替わるなかで、守と直人だけが、1年の4月から、6年の3月まで残った。
守がいたおかげで、6年間すっごく楽しかった。
信頼は半端ない。
と。
その信頼感半端ない相手が、昨夜言ってた「良い奴」が学校までの道の先を歩いてる。 背が高いからすぐ分かる。
ダッシュ!
「佐藤、おはよー!」
追いついて、横に並ぶと、ちょっと面食らった顔。
「…はよ。 …つか、元気だな」
「うん。元気だよ。佐藤は?」
「朝はだるい…」
「はは。そうなんだ」
笑った後、一瞬沈黙。
そういえば、接点が、守しかない。クラスも違うし。
話すことが一瞬、浮かばない。
どうしよっかな、話しかけといて…。
そう思った瞬間。
隣で、ふわあ、と怜があくびをした。
「…すっげーねむい。…何でお前はそんなに元気なの?」
「え。 …あ。 オレ、朝は強いから」
「…じゃあ、いつが弱いんだよ…?」
「え。…うーん、ずっと強いかな」
「…じゃあずっとそのテンションで元気な訳?」
「え。……う、うん。そう、かな…」
え。鬱陶しいとか、そういうこと?
…たしかに、佐藤のテンションとは、ちょっと、違いすぎるか…
「…はは。 お前居ると、つられて元気になれるかも」
「え――――…」
思ったのと真逆な、ちょっと嬉しいことを言われて。
直人が固まってるのにも構わず、また、はわはわあくびを浮かべている。
「……あくびばっか」
クスクス笑うと、「うるせ」と、怜に見下ろされる。
うん。
守。
――――…良い奴な気がする。
【怜side】
眠い。
小学校までは徒歩5分だった。中学は、学区の端すぎて、30分かかる。
あと道一本またげば、守と同じ中学の区域だったが、まあどっちにしても、区域の端にあるので、遠いことに変わりはない。
朝から30分も歩くとか、無い。
好きなサッカーで走りまわるのとはわけが違う。
あーねみぃ。
夜中までサッカーの試合なんか見てるんじゃなかった。
…今日はもう早く寝よ。
そんなことを考えていると、たったっと走ってくる音がして、それが、隣で止まった。
「佐藤、おはよー!」
なんて、声とともに。
「――――…はよ」
元気だなー…
何で、この朝っぱらから、そんなにこにこ笑顔振りまけるかな。
謎…。
その後の会話で、一日元気なんだなということが分かり、可笑しくなる。
「…小坂さ」
「ん??」
「部活、サッカー?」
「うん!」
「他は考えてねーの?」
「サッカーやりたいから」
「見学も他はいかないのか?」
「見学は…もしかしたら友達と行くかもしんないけど、入るのは、サッカー」
「じゃあ、部活、一緒だ」
その言葉に、直人は怜をぱ、と見上げて。
嬉しそうに、ぱっ、と笑った。
「そっか!」
「――――…」
一瞬退くくらい、良い笑顔。
「じゃあさ、体験、いつ行く? 一緒いこー」
「まだ決めてねーけど… 今週来週のどっかで行けばいいんだろ?」
「…サッカー部の先輩、超怖いっていうからさー、一緒いこ」
こそこそと、そんなことを囁いてくる。
「…分かった」
「良かったー、ありがと!」
また、めちゃくちゃ、笑顔。
「先輩の何人かはさ、チーム一緒だったから知ってるんだけどさ、その先輩たちが、すげー怖い先輩らが居るって言っててさー3年だから、引退するまでの辛抱だよね」
そうこうしてる間に、学校について、下駄箱で靴を履き替える。
「佐藤、今度、日決めよ」
「ああ」
「じゃーまたなー」
直人がバイバイと手を振って、階段を駆け上っていった。
「――――………」
可愛いから、守ってやって。
なんて、アホな守のアホな言葉が、不意に浮かぶ。
「――――……」
なんとなく首を傾げつつ。
教室への階段を、ゆっくりと、のぼった。
(2020/12/29)
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