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名前
【直人side】
「佐藤―、おはよー」
朝、また佐藤を発見。
後ろから近づいて、声をかけると。
「おはよ」
と返された。あれ、今日はちょっと目がさめてるみたい。
「なあ、お前のことさ」
急に怜が、直人を見つめてくる。
「ん?」
「直って呼んでいい?」
「――――……なお?」
「ん。良いならそれで呼ぶ」
名前で呼ばれるのは全然いいんだけど…
「…なおと、の方がいい、かなあ…」
「なんで?」
「なおって… なんか昔、猫みたいって女子に言われてさー」
なんかちょっといやなんだよなー…
ちょっと迷いながらそう答えたら。
「……その女子のこと好きだったとか?」
怜に聞かれて、えっ、と顔を上げる。
「何で分かるの」
「…分かりやすすぎ」
「……っ」
「そいつ、今ここにいんの?」
「…学区違うから、別の中学」
そう答えると、怜は、続けた。
「――…オレは直って呼びたい」
「――――…」
「…毎日呼ぶから、慣れろよ」
「…もういいよ。自分でも変にこだわってるなとは思ってたし。
…いいよ、なおで」
「ん。オレは、怜でいいよ」
「…怜ね。了解」
くす、と笑う怜。
あぁ、なんか、最初、割と無表情で冷静とか思ったけど…
こうやって笑う奴なんだなあと、こちらも笑顔になる。
「なあ…てことは、オレしか、直って呼ぶ奴いないってこと?」
「うん。今まで断ってたから。お前みたいにそこまで呼びたいとか言ってくる人居ないし」
そう言うと、怜は、ふーん、と言ってしばし無言。
「…他の奴のは今まで通り断っとけよ」
「は?………意味わかんない」
「いーから、約束な?」
「…もう分かったよー、何なんだよーていうか、勝手に呼ばれるのまで、責任持たないからなー」
「…まあそこは腹立つけど諦める」
「なんだよ、腹立つって」
「まあ、いいから」
「……はー。何なの、お前」
もーいいけど…
疲れてため息をつきつつ、怜を見上げる。
「――――…直」
「…ん?」
呼ばれるから返事をしたら、怜が、ふ、と笑った。
「…やっぱ なおって、可愛いから良い」
「――――…っ」
「猫っぽいっつーのも、まあ、分かるけど」
「……っっやっぱり呼ぶな!」
「絶対ぇ呼ぶし」
「………はー…もーいーよ…好きに呼んでよ……」
諦めてそう言う直人に、怜は可笑しそうにクスクス笑ってて。
直人は、ま、楽しそうだからいっか。と、心の中で呟いた。
【怜side】
朝、学校までの道。
会う時はいつもこれ位で、後ろから直人が走ってくる。
…小坂直人、か。
ちっこくて、元気で。クラスが違うわりに、毎日なにかしらで絡んでる。
今日は放課後、一緒にサッカー部の体験に行く予定。
…名前、いまのとこ、小坂って呼んでるけど…
――――…なんて呼ぼうかな。
見てると、ほとんどの奴が、直人って呼んでるよな…。
小坂 なおと…なおと …なお ――――…
なお。
「佐藤―、おはよー」
また超元気に現れた。「おはよ」と返して。
「直って呼んでいい?」
と聞いたら。
最初は拒否られた。
理由は、女子に猫みたいと言われたから。
…なお、がいいと思ったし。
そんな知らない女子のせいで呼べないのはなんだかムカつく。
そう思って話していたら、何とかオッケイが出た。
今まで拒否ってたってことは。
なおって呼ぶの、とりあえずオレだけか、と思ったら、何となく嬉しく思えた。変な感じ。
「――――…直」
「…ん?」
呼ぶと、直人がふ、と見上げてくる。
「…やっぱ なおって、可愛いから良い」
「――――…っ」
「猫っぽいっつーのも、まあ、分かるけど」
「……っっやっぱり呼ぶな!」
照れてるのか何なのか、何だか焦って叫んでくる。
ぷ。
必死なのが、面白い。
結局、「なお」と呼ぶことに決まった。
「放課後早く終わった方が待ってるってことでいい?」
聞いたら、ぱっと笑顔になった。
「うん、すっごい楽しみ。早く放課後なんないかなー」
「だな」
「とりあえず、着替えて廊下でな」
昇降口について上履きに履き替えながら言うと、
「うん! じゃーね、さと――――… 怜!」
咄嗟に佐藤と呼び掛けて、怜と呼び直して、笑いながら走り去っていった。
「――――……」
ほんと、良い、笑顔。
――――…思春期、ひねくれたりしねーのかな。
ちっこいし、まだかな…。
「はよー、怜」
後ろからきた友達に話しかけられて、振り返る。
「あぁ。はよ」
「…何か機嫌いい?」
「んなことないけど…」
「そう? 怜って朝いっつも不機嫌なイメージあるから」
「別に。いつもどーり」
「ふーん? そーかなあー」
――――………機嫌いい、か…。
…いいかな。
階段を上り終えると、さっき別れた直人が、友達に囲まれて廊下でなにやら騒いでた。
「――――…」
ふ、と笑んでしまって。
気づいて、息をつきながら、顔を引き締めた。
(2021/1/7)
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