体験

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【直人side】 「疲れたー…」  怜と一緒に行ったサッカー部の体験の帰り道。  はー、と息を吐きながら、直人は言った。  先輩たちが普段からやってるという練習メニューを、準備運動から一緒にやらされた。  もちろん体験なので、辛くなったら休んでもいいよと言われて、何人かは休んでいたけれど。 直人は、怜と数人の一年生とともに、休まずに最後まで頑張ってみた。 「…筋トレ辛いかも。オレのサッカーチーム、筋トレはほとんどしてこなかったから… 腹筋あんなにできないよー」  愚痴ると、怜が、笑った。 「でも結局最後までやってたじゃんか」 「それはだって、怜が平気な顔してやってるから…」 「頑張ったの?」 「そう。超頑張ってた…あーなんか、すでに筋肉痛な気がする…」  帰り道ですでに色々痛い…。 「直、サッカー部やめる?」 「え。やめないよ。絶対入る。サッカーしたいもん」 「だよな。じゃ頑張るしかない」 「…うん、分かってる。頑張るよ」  直人が言うと、怜も笑った。 【怜side】  普段からやってるメニューとは言っていたけれど、一回先輩と話した時、これ全部やることはそんなにないよ、とひそひそ言って笑っていた。  体験でびびらせているだけらしい。 「お前涼しい顔してやってるから言ったけど、他の奴には内緒な」  そんな風に言われて、苦笑い。  帰り道、直人が珍しく、体が痛いだの弱音を吐いてた。  クラブチームの練習がきつかったから、怜的にはそこまで辛くもなかったのだけれど、まあ確かに、結構なことやらされてた気がする。 「家でも腹筋とかしようかなあ…」  さっきまで愚痴ってたのに、「サッカーやりたい」と自分で言ったことで、すぐ気持ちが切り替わったのか、直人はそんな風に言い出した。 「腹筋と背筋はセットでやった方がいいし。 家でやるならスクワットとか。 あとは風呂上り、ストレッチな。体、柔らかい方が絶対いいから」  そう言ったら、直人は少し黙って、怜を見上げてきた。 「――――…怜、もしかしてやってんの?」 「前からずっと… 4年生位からかなー…最初はやらされて、今はもう習慣」  言ったら、なるほどー、とうんうん頷き始めた。 「だからかー」 「だからって?」 「筋肉きれいについてるなーって、さっき 着替えてて思ったんだよね。  …よし、オレもやろ。回数とかさ、どれくらいから始めればいい?」 「直は、携帯持ってる?」 「うん、持ってる」 「守経由で連絡先聞いて連絡する」 「分かった。ありがと」  にこ、と笑う。  ほんと。素直。  ――――… きっとちゃんとやるんだろうな…  過ごしてる時間はまだ全然少ないのに。  なんだかどんどん、この素直さにやられてる気がしてくる。 「怜、家どっち?」 「オレここ左行って10分位」 「オレこの道まっすぐ5分位いったとこ。 あれ、じゃあ、そんな家、遠くないのかな? チャリなら5分位かも」 「…そーだな」 「じゃあ今度遊ぼ?」  嬉しそうに笑う直人に、いいよ、と頷いた。 (2021/1/9)
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