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犬
【直人side】
昨日一緒に帰ったら、結構家、近かった。いつもあの時間に出て、学校の近くで会うなら、5分早く家を出れば――――…
あ、怜、発見ー!
「怜、おはよー!」
「はよ――――…なんか今日はずいぶん早いとこから現れたな…」
びっくりした顔。
こんな顔見ただけで、早く出て良かったと思ってしまった。
「ちょっと早くでた。怜に会うと思って」
「…そっか」
そう言うと、怜が、少し、笑ってくれる。
会えたら話そうと思っていたことを、すぐに話しだした。
「な、怜のクラス、委員会もう決めた?」
「まだ。今日の学活だって」
「うちも。 怜、何かやる?」
「全員じゃねーから、やるつもりねーけど」
「オレ、放送委員やりたくて。給食の時とかに好きな音楽かけれるやつ!」
「へえ…頑張れ」
「……一緒にやらない?」
「……は? オレ、そういうの、向いてない」
「向いてるよ、声良いし!」
「――――…むいてない」
「一緒にやろうよ。 だってさ、クラス一人ずつな訳。 6クラスあるから6人だけど、5人女子とかだったらやじゃん!」
「誰か男いるって」
「怜とやりたかったのにー…」
「――――……」
……でも確かに、放送委員は、なんとなくイメージ違うかなあ。
…じゃあ、無理かなあ。
【怜side】
断ったら、途端にしょんぼりした。
……しょんぼりしてるとこ、
なんか、昨日送ってきたスタンプの犬みたいに見える。
少し間を置いた後。
怜は、はー、とため息をついた。
「――――…直、絶対なれよ?」
「……え?」
「じゃんけんで負けたとか、言うなよ?」
「――――…え、それって…」
「…いいよ」
言った瞬間。
ぱっと、直人が笑顔満開。
――――…現金すぎ…
ふ、と笑ってしまう。
「ほんとに、いいの?」
「いいって言ってるだろ。 何回も聞くと、やっぱやめるって言うぞ」
「もう聞かない! やったー、ありがと、怜」
嬉しそうな顔に、苦笑い。
「オレが断ったら、どーするつもりだった?」
「んー… 他のクラスの誰かに声掛けたかなあ」
「――――…ふーん…」
他の奴でもいいなら――――…
と思った瞬間。
「でも、オレ、怜とやりたかったから。 ほんと、ありがと」
嬉しそうに笑う直人。
――――… 一瞬で、ま、いいか。と思ってしまった。
…オレ、絶対むいてねーんだけどな。
出来る出来ないじゃなくて、やりたくない。という点において、確実に、向いてない。
その後の学活で、放送委員に手をあげた瞬間。
怜をよく知る友人達には、「え゛え゛! なんで!!」と驚かれ。
「そもそも委員会とかやらねーだろ、しかも放送って」
「お前の声放送で聞くわけね、すげー楽しみー」
あれやこれやと言われたけれど、ひたすら無視。
…まー、言われると思ったし。
中休みの時、ひょこ、とクラスに現れた直人が、「なった?」と聞いてくる。頷くと、嬉しそうに笑って、「今から体育だからまたあとでなー」と言って消えていった。
――――……誰がしょんぼりしたって、やりたくないもの、やるとかって…
…………珍しーよなあ…オレ。
なんだかよく分からない、もやもやと。
でも、直が笑顔だからいっか、という、よく分からない気持ちとで。
机に肘をついたまま。休み時間を過ごした。
(2021/1/11)
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