エライ

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エライ

【直人side】 「お前さ、佐藤となんでそんな仲良くなったの?」  朝休み、机に座って皆で話してたら、幸也に急にそう言われた。 「え?なに急に」 「だってクラスも違うのに、よく一緒にいるじゃん。委員も一緒にやったんだろ?」 「そーだよ、お前あの入学式のあの後からだろ? オレが倒されたのにー」  と、俊がアホなことを言ってくる。 「あれはお前が勝手に倒れたんじゃんか」 「そーだけどー!」  俊を放置して、直人を見てる幸也たちに首を傾げる。 「そんな、仲良く見える?」 「うん、見える」 「いつの間にか、呼び捨てしてるし」 「あー…あれは、怜が言ってきたから…」  うーん、そっか。仲良しに見えるか。 「朝も一緒に来てない?」 「朝は会った時だけだよ、今日は会わなかったから、別々だったし」  そう答えた時。 「なお」  あ。この声は。 振り返ると、怜が直人に向かって歩いてきていた。 「おはよ、怜」  なんとなく、周りの3人の視線を感じる。 「朝会わなかったから。…今日、サッカー部行くか?」 「うん、行く」 「OK、じゃ放課後な」 「うん」  バイバイ、と手を振る。 「――――…」  なんとなく黙ってる3人を見て、ん?と顔を見ると。 「なお、だって」 「なお、って呼ばれんの、嫌がってなかったっけ、直人」 「そーだよ、昔、なおはやめろーって言ってたじゃん」 「あー…うん、言ってた…」  そうです。言ってたよ。よく覚えてるな、お前ら…。 「女子にからかわれて、なおってよぶなって騒いでたもんなあ?」 「………だって、怜が、それで呼びたいっていうから…」  そう返すと、幸也が、「じゃあ解禁なら、オレらも呼ぶか?」と笑う。 「あー…………それは、だめ」  思わず言ってしまった。 「「「え?」」」  全員の「え?」が重なった。 「…今まで直人で呼んでた奴はそっちで。 …慣れないから、無理!」  いたたまれなくなって早口で言うと、皆。 「まあ確かに今更だけど…」 「慣れないけど…」  と、ぶつぶつ言ってる。  でも、とりあえず、3人とも、別にそこまでは呼びたかったわけではないらしく、すぐ話は終わって、ちょうど鳴ったチャイムに、解放された。 【怜side】  サッカー部に向かって歩いている時。  直人が、一生懸命話してるのが、朝、怜が直人のクラスに行った後の会話。 「だから、なおって呼ぶの、一応、だめって言ったからな、えらいだろ?」  なんて言って、ほめて?とでもいわんばかりの顔で、見上げてくる。 「……何でだめかとか、聞かれなかった?」 「うーん。…だめって言ったら、皆そろって、え?ていうから…… 今まで直人って呼んでた奴は慣れないからそっちで、て、言った」 「――――…ふーん…」 「ふーんじゃないぞ、怜が、他の奴に呼ばすなって言ったから――――…」 「――――……」 「……言ったからって、別に呼ばれてもいいんだけどな、オレ…」  ふと、勢いを失って、はて?と首をかしげている。 「――――…なお」 「…ん?」  まっすぐ見上げてくる大きな瞳に、なんだか少し困る。 「――――…エライ」  なんとなくその頭を、くしゃ、と撫でてみた。 「え」  一瞬ものすごくびっくりした顔をして。  その後、急に赤くなって。 「…な、でんな、ばか!」 「――――……」  急に叫んだ。 「子供じゃないんだから。すっごい恥ずかしいじゃんっっ」  キャンキャン、子犬が吠えているようにしか見えない。   「笑うなよっ!もう!」  笑いを隠せない怜を、キッと睨んで、直人が言う。  ほんとになー…  なんだかなー……こいつなー……。  怜を置いてグラウンドに向かってダッシュしていったくせに、怜がついてこないと、あれ?とばかりに、振り返った所で怜を待ってる直人に、ぷ、と笑って。  直人に向かって、駆け出した。 (2021/1/12)
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