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私は制服の、泥だらけの裾をめくると、脱げそうになるローファーを引きずりつつ、その寺の門まで駆け上がった。
その門には、本願寺、という掠れた文字が木の看板に記されているのが、かろうじて読める。といっても年季の入った看板なので、あちこち虫に食われており、読み取れたのはその三文字だけだ。だが、本願寺といえばたしか仏教では立派な流派の筈だから、大丈夫だろう。私は体中から水をしたたらせ、歩き疲れて痛む足をさすりながら、その門を藁にもすがる気持ちで叩いた。どうか、廃寺ではないよう願いながら。
すると、しばらくの間を置いて、門の中から人の声がした。老婆の声だ。
「誰じゃね」
「えっと……あの、私、通りすがりのものなのですが……仏様のご慈悲を求めてここまで来ました」
少しの間を置き、ぎいっ、と扉が開く。しわくちゃの老婆が隙間から顔を覗かせる。そして私に寺の中に入るよう視線で促した。
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