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他人の力。それって。
背筋がゾクッとした。
「それって……他人に殺される、のを待つってことですか……?」
「さぁな。そうかもしれないし、そうでないかもしれん。どっちにしろ何にしろ願いを持ってここにたどり着いた以上、他人様の力を授かるのを待つことじゃ。それまでゆっくりしていくが良い」
……老婆はにんまり笑ってそう言うと、私を客間に残して寺の奥に去って行った。
それから1週間、私は他力本願寺の世話になった。
ヨネ婆(老婆のことを皆はそう呼んでいた)の世話は村の者たちがやっている。特に頻繁に足を運んでくるのは晴也という青年だ。彼はヨネ婆のおかげで、生きながらえたのだという。
彼は、背負い籠にヨネ婆のための米や味噌に野菜などを詰め込んでは、2日に一度くらいの頻度で寺にやってくる。
「俺さ、貧乏な家の4男坊だっんだ。でも、8歳の時、いよいよサラ金で首が回らなくなったとき、もう心中するしか無いと、殺されそうになってさ。そこで思いあまった母さんがこの寺に駆け込んでさ、俺を預けていったんだ。どうか他人様の力で生き伸びられるようにって。そしたらたまたま養子を探していた今の家族に拾われてさ」
それから晴也は私の瞳をじっと見てこう吐き出すように、呟いた。
「俺からしたら、お前の望みは羨ましすぎる。死にたいなんてさ」
そう言って彼は空になった籠を背負うと、村の方向に去って行く。
私は何も言えずに遠くなる背中を、冬空の下、見送るだけであった。
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