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彼女は周りを見回した。席は、八割がた埋まっている。学生、主婦――以外に、ひとりで来ている男もいるようだ。自分がこの場にそぐわないだろうか。急に彼女は不安になった。不安になったこころを彼女は落ち着かせる。――大丈夫。ラフな格好のひとなんて、他にもいる。パーカーにロングスカートの彼女は、果たして講演会にふさわしい服装なのかと疑問に思ったが、前の座席の男の子たちはTシャツにデニムだ。ひとまず――安堵した彼女である。
やがてステージに講師と思われる男が現れた。あっ、と彼女は声をあげそうになった。その男性は――毎週金曜日の夜に、彼女の勤務する古本屋にやってくる男――そのひとだったのである。
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