#A01-02.五度目の正直

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#A01-02.五度目の正直

「本日の講義をさせて頂きます、S大学の准教授の、奥野(おくの)圭樹(けいじゅ)と言います」  ステージの中央、壇上に立つと男は挨拶をした。その声も――いつも本屋で聞く男の声そのものだ。とはいえ、やはり大勢を相手にすると発声法を変えるのか、はりのあるものであるが。 「さて。今日は、ぼくの勉強している社会科学について説明をさせて頂きます。――ひとつ質問ですが、このなかにぼくの授業を聴講している学生さんはいますか」  見回せば、手を挙げる人間が、ぱら、ぱらと。ということは、大多数がなにかしらの興味を持ってここに来ている社会人や主婦――だということだ。  理解したらしい。奥野は笑みを見せ、やがて持論を展開していく。  * * *  社会科学とは、社会を科学的に解明する学問だ。  曖昧模糊、不透明である社会のからくりを、理論を用いて分析する学問である。
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