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この古本屋は、店主の意向で、昭和の小説家の本を数多く仕入れている。一部ではメッカと呼ばれているほどだ。絶版した有名作家の本を多く仕入れているから――店主であるオーナーは、そのため不在がちだ。仕入れるために、また見分を深めるという至極まっとうな理由で、全国各地を回っている。なお、オーナーはバンドのギタリストをしており、バンド活動で忙しいのもまた、この古本屋を留守がちにする理由だ。というより、実質彼女は雇われ店長というかたちだ。
男を見送ると次の客が来た。にこやかに応対し、彼女はその日の業務を終えた。
* * *
バスタブに湯を張り、好きな入浴剤を入れ、全身を洗ったあとに、お気に入りのスクラブを塗り、流すひとときも、彼女にとっての幸せだ。好きな香りを嗅ぐと、生活のこまごまとした悩みとか、いろんなことを忘れられる。
好きで、本屋に勤めている。本に囲まれることが彼女の幸せだ。電子書籍が普及して久しいが、あの紙をめくる手触り――あと半分も残っているけど、どうやって作者は物語を畳むのか――その高揚感は、電子書籍では味わえない。
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