【PartA】成瀬茅乃/#A01-01.密やかな楽しみ

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「北海道」 「へえ……成果はありましたか」 「まあ、色々。明日届くようにしといたからよろしくね。ああそうだ、今度の土曜日、おれが店やるから、たまにはさ。ぱーっと遊んでおいでよ」 「遊べと言われましても」と彼女ははたきで本棚を掃除しながら、「遊び方が分かりませんので」 「勿体ないなあ成瀬さんはー」隣に立つ店長は、仕事をするそぶりがない。「せっかく可愛いんだし。危ないこと以外ならいろんなことをやっちゃえばいいのに」 「いえ。わたしは、本が生き甲斐ですから……」言いながら嘘をついているような気分になる。毎週金曜日。十九時過ぎに来るあのひとに対する感情はいったいなんなのか。うまく――説明出来ない。ひょっとしたら恋――なのだろうか。  恋。恋なんかをしたのは、学生の頃以来で……社会人になってからは激務に追われ、仕事に没頭するあまり、友人はひとりを除けばほぼ音信不通。唯一の親友も休みが土日で、土曜日、仕事帰りに会うことが多い。交友関係はそのくらいだ。
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