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ひょっとしたら自分はものすごく寂しい人生を送っているのかもしれない。妙齢なのに、結婚をせず、友達はたったのひとり。趣味は読書。仕事も本絡み。
急に、彼女は思い立った。自分の人生に新しい風を吹かせようと思ったのだ。
「店長。分かりました。土曜日わたし――お休みを頂きます」
「うん。たまのお休みだもの。楽しんでね」
この日の仕事を終えると、唯一の親友である上村美晴に連絡をし、夜に飲む約束を取り付けた。尤も、酒の弱い彼女はよく喋る美晴の聞き役に回ることが多いのだが――思ってもない事態に見舞われることなど、このときの彼女は予想だにしなかった。
* * *
といっても彼女の趣味は、近所の散策である。ショッピングセンターを数時間ふらついたあとは、自宅アパートでお昼を食べて、運動がてら歩くことにした。彼女の出身大学は、花見駅からバスで五分ほどのところにある。普段は通らない道だが、書店員は体力が命だ。在庫整理など案外力仕事が多い。なので、彼女は休日は歩くようにしているが――大学の入り口に看板があるのが気になった。
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