【PartA】成瀬茅乃/#A01-01.密やかな楽しみ

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『特別公演 社会科学とはなにか~権力の構造を解き明かす~』  講師である奥野圭樹という名前に、覚えがなかった。おくのけいじゅ、と読むのだろうか。社会科学を専攻した彼女は、卒業以降――ブランクはあれど、何本か論文は呼んでいる。卒業してからも、ゼミのメンバーで何回か飲み会を行ったが――といってもあれは三年ほど前か。時間の流れを感じる彼女である。 (社会科学――)  無料で、誰でも聴講出来るとのことなので、引き寄せられるかのように、彼女はなかに入った。キャンパスに足を踏み入れるのは卒業以来だ。私立大学ならではの豪華なホールが出迎える。円柱型のホールの内部は、ステージを中心に、客席が後方に行くにつれ高さのある座席となっている。よって後方の席に座ったとて、前のひとの頭が邪魔になるという事態が起こらない。この作りは学生時代から、ありがたいと思っていた。彼女は身長が低いほうなので、ライブイベントなんかに行くと、前が全く見えないという事態が起こりやすい。
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